放談ラジオ音響系

読後の一言:前編(1/2)

 今さらですが、昨年2007年後半に読んだ本の印象を簡素にサラサラッと書き留めておきます。これまで長い間、本棚の隅に追いやられていた書物たち、晴れて日の目を見る。



とりあえず読んでみることにした

  誰にでも一冊はあるのではないでしょうか、買ってみたけど読まれぬまま、部屋の隅でホコリを被っている本。僕も昨年、久々に本棚を整理してみたら、そんな不幸な本が何冊か出てきました。僕にもらわれたばかりに、申し訳ない…。改めてそのラインナップを見ると「なんでこんな本を買ったのか分からん」というジャンルのものもあったりして、それはそれで面白そうだし、今まで読まれなかったのは、特にこれといった理由もありませんから(たぶん気分の問題)、とりあえず目に入ったものから順に読み進んでみました。本の幸せとは、やはり読まれることにある。その読後の簡単なコメントをサクサクっと記しておきます。

【fig.1】『制服少女たちの選択』宮台真司/講談社/1994年/287p/¥1,700(税込)

 自分を常に取り巻いている物事について、そこへ的確な言葉を当てはめた途端、それがハッキリと見えてくる。今まで考えた事もなかったことが、まるでビジュアルを与えられたように見えるようになる。例えば酸素や窒素、二酸化炭素などから成る空気というもの。普段は全くその存在を気にしないのに、「空気」と言葉を与えたために、それが見えるようになりました(無色透明なのに!)。ごく最近のことだと聞きました。世の研究者・評論家という人達は、そんな「言葉を与える仕事」を生業にしています。
 僕が中学生の頃だったか、女子生徒の間で「まる文字」なる、いわゆるカワイイ文字が流行しました。当然僕なんかはその文字に対して特別関心をよせたわけでもなく、「みんながみんな同じような文字を書いているけど、一体彼女達はいつそれを練習しているんだろう」と不思議に思ったくらいです。しかし本書の序盤では、その「まる文字」が何を背景になぜ生まれて、それがどのように機能し、そして廃れて行ったのかという解説が分かり易く書かれて在り、「まる文字についてそこまで真剣に考えるなんて」という著者の態度が新鮮でした。そんな普段は見えていない事象に強く関心を寄せて、言葉を与えているのが宮台真司なのでしょう。ちなみに「売り」に関するドキュメント部は客寄せパンダで、後半の社会システム理論に話題が移って行くにつれ、俄然面白くなっていきます。ところで本書は発行年を見て分かるように現在絶版、今は文庫版になって、新たに序盤で触れている少女たちのその後が追記されているらしいのですが、個人的にはその後になぞ全く興味がありません。

【fig.2】『一平 かの子』岡本太郎/チクマ秀版社/1995年/248p/¥1,800(税込)

 宮台真司からイキナリ岡本太郎という脈絡の無さ、180度展開が今回の醍醐味です。自分でも次に何が来るのかワクワクです。さて、短編『老妓抄』をきっかけに始まった岡本かの子への興味は、彼女の全集を読み進んで、瀬戸内晴美『かの子撩乱』でひとまず落ち着いたのですが、彼ら特殊な夫婦の間に生まれた太郎の目に、両親は一体どのように映っていたのだろうか、という新たな興味がこの本を手にした理由です。本来なら創り上げた芸術そのものに注目すべきなのに、岡本太郎の場合、その言動の方に強い印象が残ってしまう傾向があるのですが、彼が生まれ育った家庭の特異さを知ると、もしかしたら作品そのものより彼らの形成していた家族は文学的なのかも、と思ったりする時があります。結局、そんな家族の在り方が影響したのかどうか、岡本太郎は後継を残しませんでした。

【fig.3】『クラッシュ』J・G・バラード著:柳下穀一郎訳/ペヨトル工房/1992年/238p/¥2,200(税込)

 自動車自体は身体機能、特に走る行為を拡張するのですが、それが交通事故を起こした時、ある種の人間にフェティシズムを引き起こすとしたら…。例えばMacintoshの誕生は効率良く2次元アートを創作することを助けました。つまり手を使い筆を取って絵を描く行為に関わる肉体の運動を拡張したのですが、では、バイブレーターという機械はセックスにおいて性感をより高いレベルへ引き上げることを助けているのでしょうか(残念ながら女性の感じ方は知る由もありません)。そうだとすれば、つまりバイブも性交時の身体機能を拡張しているわけです。機械の助けによって今まで気付かなかった境地へ到る。上述したように言葉を与えて物が見えるようになったりするのと同様、人は自ら発明したものを自分自身にフィードバックさせることでかつての自分では居られなくなる哀れな生き物です。現在ではケミカルな身体機能の拡張はほぼご法度なのですが、プライベートでの機械の活用は果たして違法性が出てきたりするんでしょうか…?ところで僕はクローネンバーグによって映画化されたものを先に観てしまったのですけど、あの映像は原作に驚くほど忠実だったということが、今回の読書で明らかになりました。それはそれで凄い。バラードのテクノロジー三部作では『コンクリート・アイランド』が未読です。

【08/2/3更新】