放談ラジオ音響系
読後の一言:中の後編(1/2)
中の後編という、前回からのさらに続き。久々にクラークの登場ですが、結構良かったです。やはりサクサクっと書きます。

読書ネタが続きます
ここのところMac mini関連の記事が全く更新されてない…というかミニはおろか、Mac関連全般で取り上げようと思うネタが無いのでどうにもこうにもお手上げ状態なのですが、今月の後半には何かしら動きがあると期待しています。SDKの配布に隠れて、ミニがアップデートしたりなんかして。
【fig.1】『過ぎ去りし日々の光(上・下)』アーサー・C・クラーク&スティーブン・バクスター共著:冬川亘訳/早川書房/2000年/343p・331p/各¥660(税別) 最後にクラークを読んだのはもしかして『3001年』だったか…ポリオ後症候群で車椅子生活となったクラークは、これからは若手のSF作家との共作というスタイルで活動を続けることになりましたが(おそらくクラークはアイデアの提供がメインではないかと)、個人的には共作スタイルが苦手ということもあってしばらく本棚の隅に放置。さて、今回の企画に背を押され久々に読んでみました。
SFの面白さはアイデアやコンセプトであったり、時に哲学的思索やもちろん書かれている文章そのものの文学的表現だったりするのですが、とりわけ個人的に重要だと思っているのは「ヴィジョン」です。クラーク自身がキーをタイプしていればこうはならなかっただろうと残念に思う程度に本書の文章は少々安っぽいのでオススメはしないのですが、そのマイナス面を補う、強烈なヴィジョンを2つ挙げておきます。今はYouTubeなどで動画を閲覧することが普通になっているけれど、ここで登場するのは自分は家に居ながらにして時空を超えカメラを移動することが可能になるというガジェットです。最初は同時刻に国境を越えて他のあらゆる場所を「覗き見」するだけだったのですが、やがて必然として「過去」へも逆行出来るようになります(未来へは行けません)。従来のタイムマシン物と異なるのは、過去には干渉できないということ、あくまで「覗き見」するだけなのです。もちろん本質は覗き見ですから、世間が夢中になるのはワイドショー的視点です。しかしなぜたったそれだけのビジョンに強烈なインパクトがあるのか。それは、真実として実際に起きた事は、その場所その時間に「居合わせて初めて実感できる」という斬新な感覚を与えるからです。その瞬間に居合わせたら最後、そこで起きた事件はその後に様々な解釈によって曲解されることなく、唯一の真実として記録される。それぞれの国や民族の立場によって幾千も在る歴史が、一つの歴史に収斂、再構築されていく可能性が与えられるわけです。逆に言えば、真実はたった一つなのに、その意味が複数存在してしまう理由は「あらゆる、全ての真実を同列に" 網羅 "していない」からに他なりません。さてもう一つは…おっと、ネタバレは本意ではないので、これ以上書くのは控えましょう(←ちなみにラストの展開ではありません)。
【fig.2】『トリガー(上・下)』アーサー・C・クラーク&マイクル・P・キュービー=マクダウエル共著:冬川亘訳/早川書房/2001年/517p・491p/各¥900(税別)本書に限らず上で紹介した『過ぎ去りし〜』もそうですが、SF小説の文庫本の売れ行きには、まず表紙のイラストにどれだけ魅力があるかも少なからず影響を与えると考えます(例えばホーガンの『星を継ぐもの』の表紙は素晴らしい)。その意味で、本書の表紙や帯のコピーはあまりにも酷く、出版社に売る気が無いんじゃないかと思ってしまうくらい残念なのですが、しかし、これと同じ理由で本書を敬遠していたクラーク・ファンがいるのなら、ここで宣言しておきたい。
これはメチャクチャ面白い。オススメです。是非、読め。
物語をトリガーするのはまさにタイトル通り、最終兵器であるトリガーそのものなのですが、大仰な兵器とは名ばかり、その実際はあらゆる火薬を無効化する「何か」なのです。何故「何か」と書いたのかと言えば、主人公達にもそれが何であるのか良く分からないから。よく混同されるのですが、科学の進歩は主に「発見」に拠るのであり、「発明」とは発見された事実を技術的に応用することです。ここでは火薬を無効化する「何か」の発見により、アメリカを中心に世界が変化せざるを得なくなる…。群像劇になっていていくつかの視点があるのですが、兵器が無効力化された世界の政治シミュレーションに必要になってくる「新たなイデオロギー」をどのように民衆へ提案すべきか、大統領が思案し実行に移すところは実に「理想的な」アメリカに描かれていて読み応えがあります(不覚にも感動したりして)。展開していくと途方もなく壮大なスケールになってしまうので、本書では主にアメリカ国内での変化初期段階に留まるのですが、その分、描写の適度な精緻さ・文章の適度な重さが保たれ、最後まで十分に夢中になれました。意外にも僕のクラーク・ランキングで上位にランク入り、おそらく残りの人生で一度は読み返すのではないかと。個人的に好きなエピソードを一つ挙げると、最先端兵器を開発・販売している企業のトップと上院議員が、いよいよ会社が立ち行かなくなる状況で語り合う場面でしょうか。ここは思い切って会社の持つリソースを別の分野(ここがポイント。クラークのファンなら分かります)へ投入しようと提案する箇所は、さりげなく書かれているだけですが、泣けました。もしその提案が唐突に出されたら笑うところですが、そこに至るまでのトップの思案が丁寧に書かれているので泣きに転ぶのです。丁寧で十分な書き込み、SFと言えどやはりこれは重要です。しかしながら、一つ面白い指摘を。物語の要ともいえるトリガー、途中で幾度かバージョンアップするものの、全体を通してその「すがたカタチ」が具体的に思い描くことが出来ないのです。それは故意に詳細な説明を避けているのか、あるいは僕が読み逃しているのかもしれませんが、世界を激変させる「象徴」として在るとするなら、最後まで抽象的な存在であるほうが効果的とも言えるでしょう。

