放談ラジオ音響系

読後のつぶやき'08:3月分(1/2)

 本来なら3月〜4月は花粉の影響でほとんど読書が出来ないのですが、今年の僕は違います。とりあえず、今のところ。



あなた作る人、そして解く人。僕、使う人

 普段の生活において全く意識していなくとも、パソコンを使ってネットに接続しているのならおそらく大なり小なりお世話になっていると思われるのが、暗号。この世に生まれ出た理由が理由だけに、必要とされる時は厳しく秘匿され、期限切れとなって晴れて公にされる時にはすでに用無しになっているという運命を背負った、悲しき暗号にまつわる悲喜交々のエピソード満載の一冊。

【fig.1】『暗号解読』サイモン・シン著:青木薫訳/新潮社/2001年/493p/¥2,600(税込)

 当然ながら僕も暗号なんてものを普段意識したことがないから、暗号の過去・現在・未来、仕組み・解読法について分かり易くまとめられている本書を、さらに分かり易く紹介しつつ感想文にするのはどだい無理な話。それらエピソードを辿るには実際に本書を手に取ってもらうしかありません。しかし、その暗号にまつわるアレコレを読み進めて行くと、これまでの人生ですれ違ったうろ覚え程度の知識が(つまり実生活で役に立っていない)、意外な所で暗号作成・解読に応用されていることに感動してしまうのです。たくさんあるのですが、そのいくつかを列挙してみます。

 まず、レガシーな換字式暗号の解読法の発見は、何とイスラム文化圏の神学者・言語学者チームによるムハンマド言行録解析の研究に基づいているというもの(とは言っても昔々、九世紀のお話)。ここでは単語レベルよりも小さな、文字レベルの出現頻度分析によって暗号文を解いてしまうのですが、これを読んで思い出したのがコレ。

【fig.2】度数ソートの印象が強くて、なんとなく捨てずに持っている『BASICによる高速ソートプログラミング』。

 高校生の頃に何となく興味を持って読んだのですが、ソート(並び替え)アルゴリズムはどうすれば最速に出来るか、という内容のもの。例えばクラスに40人いる生徒をテスト結果の良い得点順に並び替えなさい、という問題があった場合、普通に思い付くのは「総当たり」。しかし実は、それはとても効率が悪い。この本ではクイックソート・抽出ソート・バブルソート・シェルソートなどのテクニックが紹介されているのですが、それらの中で一番高速だったのが「度数ソート」なるもの。つまり度数分布表をもとに効率良く並び替えを実行するのです。な〜んでそれが一番速いのかの説明は省きますが、つまりは統計学が思わぬ場面で活躍するという一つの例。個人的にかなりインパクトありました。

 そして中盤過ぎたところ「公開鍵」の章で出てくるのはモジュラー算術と素因数分解。前者は以前紹介した同じくサイモン・シン著『フェルマーの最終定理』でもちらっと出てきたので、あ、ここでも活躍してるんだと驚き。後者はもちろん学校の授業で習った記憶があるのですが、もうほとんど覚えてません。でもこういう場所でしっかり役に立っているのだなあと、これまた古い友人に出会ったような感激(しかしここでは、暗号鍵を解くために素因数分解する必要があるけれど、桁数が大き過ぎて役に立たないという例で使われてるんですけどね)。

 そして因数分解に絡んで最後のトリとして登場するのが、最近本屋の科学コーナーでもよく目にする「量子コンピューター」。最近のトレンドなのでしょうか頻繁に見かけるのだけれど、究極の暗号を解読するために応用される量子力学の「重ね合わせ」とか「多世界解釈」なんていう概念、あまりに突飛過ぎてまるで実感出来ないのがもどかしい(それが面白い)。「シュレディンガーの猫」のたとえ話は認識決定にやんわりと関わってきたりで楽しいのですが、どうせ実感出来ないのならエンタメに応用してしまえば良いではないか。そんなこんなで思い出したのは定番ですが、コレ。

【fig.3】『宇宙消失』グレッグ・イーガンによるパラレルものですが、タイムマシンもののように時間を戻って過去をいじるような事はしません。ここでは世界の持つ不確定性を人間が「確定」します。

 これ以外にも失われた言語を解読するところでは(文字の「発音」に注目して解く!)、やはり有名なロゼッタストーンも登場したり、紹介したいエピソードはまだ山ほどあるのですが、もう紙面も尽きました。そんなこんなでサイモン・シンによる科学ドキュメンタリー三部作、何はともあれ少数精鋭の天才たちによって世界の記述が書き換えられて行く様は、言いようのないワクワク感があります。さて、サイモンは次回作に何を取り上げるのでしょうか、今から楽しみですな。

【08/3/31更新】