連載第15回
2012年9月2日
「生誕100年 船田玉樹展」で大いに刺激を受ける

 先月ふと目にした船田玉樹展の紹介記事に、『花の夕』という作品(←この看板になってる画)と油絵で描かれた自画像が載っていて、それが何故かとても強い印象を残し、機会があれば是非今回の展示会に行ってみたいと考えていたのですが、ちょうど先日そのタイミングがあったので電車を乗り継いで練馬区立美術館へ出かけてきました。東京に住み着いて20年近くにもなるのに、はて練馬区ってどの辺りなのだろう?と路線やgoogleマップなんかで下調べしたのだけれど、西武池袋線を使うんですね。この電車を使うのはかれこれもう10数年ぶり。当時は所沢に住んでいた音楽仲間と会うために月1程度で使っていました。池袋駅から中村橋駅までと近く、改札を出てすぐの所に美術館はありました。

 子供の頃からそれなりに絵は好きだったけれど、まあ、単に子供が興味を持つ程度のこと、技法とか歴史とか、そんなことはまるで無関心で、これまでも巷で話題になっている著名な芸術家の展示会などに数回出向いたくらい、日本画を中心とした画家の展示なんて初めてで、もちろん船田玉樹なんて知る由もなくどんな経歴の人なのかてんで分からなかったのだけれど、パッと見で何故か頭の中を刺激され、インドアな自分がわざわざ出向くくらいなのですからそれは自分にとって意味のある出会いだったんでしょう。それにしても当初の「日本画」というキーワードでミスリードされていた事前予想は200点ほどの実物を目の前にして見事吹き飛びました。

 そこにあったのは様々な実験の痕跡というか(日本画だけじゃなくて、油絵やら水墨画やらガラスを使ったものとか)、まあ、ここで拙い表現で言葉にしても詰まらないので止めてしまうのですが、とにかく鑑賞している間は圧倒されるというより、何か腹の底から笑いが込み上げてきて仕方ありませんでした(映画や小説など、自分にとって貴重な出会いとなるであろう作品と対峙している最中はずっとニヤニヤ笑ってしまうのですが、皆さんはそんな事ありませんか?)。一つ一つがとても興味深く、一体これを描いている時玉樹はどうやって手首を動かしていたんだろうとか色々思い巡らせてしまって、やっと館内を一巡し出てきたときには2時間経っていました。ジャンルは違うけれど、おそらく今回の体験は、今後の自作曲に強い影響を与えるのではないかと予感しています。嬉しい。

 この印象をずっと保持しておきたいと思い、新宿の紀伊国屋本店で『独座の宴―船田玉樹画文集』を購入しました。美術館で一緒に展示されていた丸木伊里の『馬』や(まるでレディオヘッドのジャケ画みたい)、あまりにフリーな経緯が爆笑を誘った「私はこうして絵の道へはいった」という文章も収められていて、三千円だったけれど良い買い物をしました。しかしいつも思うのですが、実物を実際に目で見るのと印刷物から受ける印象とでは、まるで雲泥の差がありますな。9月9日まで、興味のある方はこの機会に是非。