連載第104回
2015年11月23日
春画展に行ってきた(18禁)

 浮世絵がメチャクチャ評価されている海外では幾度も開催されているらしいのですが、実はこれまで国内において展覧会が行われていなかった…というのがビックリな、日本初の『春画展』に行ってきました。場所はJR山手線目白駅から歩いて20分ほどのところにある、永青文庫という建物。全く知らなかったので、主催者挨拶のところで細川護熙の名前が出てきたときには驚きましたが「昭和初期に細川家の家政所(事務所)として建設されたもの」というだけあって、格別大きいというわけではないけれど格調高いというか、長く庶民とは交わる事のなかったであろう特別な時空間を感じさせる建築物でした。

18禁なのに予想を覆す大混雑

 今日は空も厚い雲に覆われ気温も低く、もしかしたら雨降るかも…という天候だったので会場も空いているだろう(なにせ18禁だし)と思っていたのだけれど、正午過ぎに現場についたら既に大混雑していてまたまたビックリ。『大浮世絵展』の時もそうでしたが、人混みは大の苦手で、今回も同様に長い長い行列が場内に出来ており、遅々として全く観覧が進まない。牛歩ってこういう感じなんだろなと。

 思うに、絵の横に詳細な説明文が置かれているのが閲覧進行を遅らせている原因なのではないかと、一枚の絵を必要以上の時間、穴の開くほど眺めながら考えました。ほら、よく言うじゃないですか、日本人の絵画鑑賞は絵を見るのではなく、常に他人による説明や解釈を欲しているというアレです(自分で感じない・考えない)。確かに時代背景やその他情報は、あればあったで対象を深く知ってさらに横に展開させるのには役立つので不要だとは言いません。ただ、それは展示しているその場所に無くても何ら不都合ではないと思うのです。

 展示場には単に作品とタイトルがあるだけで良いのではないか。絵と題名があれば色々想像も膨らむし、自分で発見する!という一番の歓びが得られる。リアルタイムで視覚情報を仕入れている時には逆にテキストやコンテキストが想像を妨げます。説明や鑑賞テクニック等は全ての作品を観覧し終えた後、必要であれば図録を購入しそこに書かれてある文字情報から学べば良い。そうすれば、この牛の歩みのような停滞もスッキリ解消するような気がします(ちなみに百数十点という決して多くはない作品数を見終わるのに、たっぷり1時間半以上かかりましたが、実際に絵を眺めていた時間の割合は少ないと思います)。ええ、肝心の春画については書いていません、行列解消のアイデアについて書いています。…が、まあ、行列になっちゃうのはみんな接合局部に見入っていたからかも?…という至極真っ当な憶測も付け加えておきます。

紙メディアの耐久力と、やっぱり北斎すげぇ

 初期の春画は物語に沿って描かれていたらしいのですが、やがて物語は消えて単に交わっている場面を描いてるだけのものとなり、それが再び物語をまとって大量の文字情報を載せて来たのが北斎。作品を売って商売するとき、そこにストーリーを付け加えて消費者に訴求するという発想は代理店っぽい手口ですが、しかしアイデア出しだけでなく自身で高品質に作品としてまとめ上げる手腕、ひとつ頭抜きんでていると思いました。やっぱり天才だわ、と。それらはちゃんとした漫画になっていて、もう200年も昔に作られたものなのに今も読める状態にあるというのは、紙メディアの凄さです。デジタルデータなんてこの先50年持つかどうか。もちろん北斎以外にも素晴らしい構図やアイデアを持った作品がたくさんありましたよ。

おおらかだった18禁展覧会

 それにしても春画の何に期待して皆集まってきているのか。てっきり不純な動機を抱いた僕のようなオッサンばかり居るのではないかと思っていたところ、現場に着いて驚いたのは何よりも女性の多さです。カップルはもちろんのこと、女性同士、女性お一人様、とにかく男性を圧倒する女性(老いも若きも)の多いことよ。むしろ僕のようなオッサン単体は少数派で居づらささえ感じたり。

 そういう状況のときの女性は強い(いや、いつも強いとは思いますが)。黙っていたら負けとばかり、今回の展覧会においても周囲を気にせず思った事を素直に口にします。チラと耳にした言葉はざっとこんな感じ。「(局部の描写が)細かいな」「着たままか」「咥えてる」「あ、これ舐めてるの気付いた?」「男色か」「真ん中が凄いよ」「この髪形カッコいいな」「いい表情してる」「濡れてる」「この人綺麗だね」「(性器の)擬人化パロディ!(ぷぷぷ)」「字読めないな」「(湯飲み持ちながらヤッてるので)この男、集中してないな」「帽子付けたままで落ちないのかな」「炬燵(あるある)」「腰ねじれてる」「うふふふふ」「秘宝館っぽいな」「あははははは」「指入れてる」「(女同士の絵で)道具使ってる」「縛ってる」等々。

 春画という露骨に性愛を描いたものでありながら、どことなく笑いを誘う画風のせいか、場の空気はどこかしらおおらかさが漂っていて、公の空間で女性の口から上述のような言葉が方々から聞こえてくるという状況は全く初めての体験というか、ちょっと目覚めてしまったような気もしたり。実際、どちらを向いても性器がボヨン、ビロン、ニョキ、ズボッとしているのに、たぶん誰一人としてムラムラしていない感じ、ただ「今も昔も人間の考えている事は変わらないな」と感心したり楽しんだり気持ちが和んだり。おそらくこのように性に対してオープンでナチュラルな雰囲気になれる空間が他にあるとしたら、その一つはたぶんヌーディスト・ビーチなんだろうなと思いましたが、もちろんそんな開放特区なんて日本には存在しないことを思えば、これまで日本で春画展が行われなかった理由の一つが分かった気がします。細川さん、画期的でした!

 分厚くてズッシリ重い図録は4千円と値が張りましたが頑張って購入(ちなみに手提げ袋は透明なビニール!なので持ち帰る予定の人は紙袋やバッグなど別途準備しておくとベターです)。開催は残り1ヶ月を切ったので興味のある方は是非。カップルの方はデートにも、営為を次なる高みへ押し上げる為にもオススメです。↑この鏡に写っている足の裏、イイですね。