連載第7回
2012年5月6日
YES来日公演に行ってきた(4月19日@渋谷公会堂)

 もう先月のことになるのですが、東京は渋谷公会堂へYESの来日公演に友人と行ってきました。実は彼等の来日のことはその友人に誘われるまでまるで知らなくて、去年だったかに新しいアルバムが出たということは何となく耳にしていたのだけれど、特にチェックすることもなく時間が過ぎていたのですが、ライブに行くこと自体もう久しく無かったことなので、たまにはイベントっぽいものに出向くのも良いだろうとそのお誘いに乗ってみたワケです。OKの返事をするとすぐチケットを取ってくれたのですが、その直後に完売してしまったらしく僕としては少々驚きでした。まさか今でも完売するほどの注目があるとは思ってなかったですし。

 とりあえず来日までそんなに日もないということで急遽ニューアルバムを購入、予習しておこうと繰り返し聴きました。ボーカルは体調不良で参加出来なかったジョン・アンダーソンに代わって新ボーカリストのベノワ・デイヴィッドという若い人がとっているのですが、アンダーソンというよりはこれ、事前に知ってなければ「今回プロデュースしてるトレヴァー・ホーンがボーカルも兼ねてるのかな?」と思ったに違いないというほどホーンにそっくりで、まあ確かに、ホーンがボーカルを担当したアルバム『ドラマ』制作時に没にされた楽曲「フライ・フロム・ヒア」を中心に構成されたアルバムであれば、なるほどこういうボーカリストの選択も当然だな…というか、これもホーンの策略に違いないと納得した次第、相変わらずの策士だなと言った感じです。
 ところでこの新作、どこを切り取ってもまさにイエスらしいとしか言えない巧い作りで、良く言えば不変な、悪く言えばどこにも新鮮味が無い、とも言えるのだけれど、個人的には中心人物でもあるクリス・スクワイアのベースが未だ衰えを知らぬくらいブンブン鳴っていて「おお、初期のイエスを思い起こさせるじゃないか」と嬉しく思いました。しかし、それでもクリスを始め中心メンバーは付属していたDVDでメイキング映像を見る限り皆おじいちゃん(たぶん60歳以上)。渋谷公会堂というよりはブルーノート東京とか、ビルボード東京の方が似合ってる感じ、果たしてこれでライブなんて大丈夫なんだろうか、AED持っていこうか、なんて心配になったりして、これはやはり期待しないでおいた方がベターだな、と考えました。

 さて当日。並んでいるのはやはり年齢が相当高めの人ばかりで、行列の間に若い人がまぎれていると目立ってガン見しちゃうくらい。でも別にイイんじゃないでしょうか。ネットが普及して古い音楽も最新の音楽も同列に聴ける時代にはなったとは言え、それでもやはり音楽には何となく「それが生まれた時代」がくっついて回るような感じがあります。ファン層が一緒に歳を取っていくのも悪くはないですよ。そうそう、友人が「アルバムに参加していた新ボーカルが体調不良になって、今回の来日公演はまた別の代役ボーカルが務めるらしい」と教えてくれたのだけれど、それはYESなのか?
 まあ、セットリストは「ニューアルバムからの楽曲が中心で全体に穏やかな感じらしい」という友人の情報もあって、僕も最初からスタンディングだと2時間持たない身体ですし、そりゃ結構な事だとのんびりした気持ちで臨んだのですが、ナントその予想は見事に裏切られました。

 1曲目、意表を突いて彼等の3rdアルバムから「Yours Is No Disgrace」!!おーーー!カッコイイーー!クリス・スクワイアのベースがブンブン鳴っているではないか!疑って悪かったゴメン謝るよ(以下、略)。

 結局、新作からは3曲くらい(?)のチョイスで、ほとんどが旧作から選りすぐりの名曲を畳みかけるように演奏、メンバーも皆元気で動き回っていたし(特にスクワイアはベース振り回して動きまくり)、急遽代役となった若いボーカル、ジョン・デイヴィソンもちゃんと声出てたし、アンダーソンみたいに曲間タンバリン持ってふらふらしてる感じが本人に似てて良かった(正直に言うと、アルバム参加のベノワ・デイヴィッドより良かったと思うよ)。つまり開演直前までの不安は一瞬で消滅、期待値が異様に低かったおかげで蓋を開けてみればファンサービス満点・大満足の一夜になりました。

 思えば学生の頃、この友人と大阪まで見に行ったイエスの変形バージョン、ABWHから20数年。そしてプログレッシブ・ロックのライブを見るのは同じ渋谷公会堂で10年前くらいに見たキング・クリムゾン以来(あ、それも同じ友人だ。付き合い長いな)。プログレとは未だ現役で頑張っているプロのミュージシャンが、おじいちゃんになってもガンガンとアグレッシブに頑張っているという意味なのかもしれない。ホントですか?エネルギー貰ったっ!

 よく、昔のバンドが再結成してツアーとか回り出すと「お金が無くなったからだな」と嘲笑ネタにされることが多いけれど、もちろん多少そんな事情も透けて見えることがあったりするものの、ここは一つ「彼等は幸いにして音楽の代替となるものを見つけられなかったのだ」と肯定しておきたい。パフォーマンスしている時の高揚感とか多幸感とか、別に音楽に限らずあらゆる表現や、スポーツ、政治、学問、福祉などなど、様々な分野で感じた至福感の代わりになるものが他には無かったという「それしか出来ない」バカ一徹さは、おそらく晩年振り返った時にその短い人生を少しは価値あるものにするハズ(本人限定だけど)。人生なんて生まれてきて死ぬだけ、元来まるで意味の無いものなんだしね。