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放談ラジオ ― 連載第40回

今、理想のハードシンセとは?Prophet12とCS-80を巡る無駄に長い旅

2013年7月15日

 今年1月にカリフォルニアで開催された世界最大規模の楽器フェア「NAMM Show 2013」。そこで発表された数々の魅力的な楽器や最新技術を採り入れた関連機材類の中で、個人的に一番注目したのがこのDave Smith Instruments「Prophet12」です。僕の世代でProphetと言えば当時のシンセサイザーを代表する名機の一つであるProphet-5であり、その設計者デイヴ・スミス本人の手による最新の作品、つまり「12」が、正しく「5」からProphetの名に相応しい音色を継承しているか否か、がとても気になってしまったのです。しかし同じProphetブランドを冠しているからと言って、まったく同じ質感の音色を持つかと言えば、音の世界はそんなに単純ではありません。例えばProphet-5とProphet-600のオシレーターの仕様変更による微妙な違い、モノフォニックに単純化したPro-Oneの予想外の図太い音など、設計やパーツが違えばそれは即、音色に反映されてしまいます。文字におこされたカタログ・スペックをいくら真剣に長時間眺めていても何も分かりはしないのです。

 また、僕個人が勝手に思い入れたっぷりに抱いているProphetという名称へのイメージ、それを最新製品であるProphet12へも求めてしまう事自体、果たして良いことなのかどうか。モノは変化してこそ。全く変わらないことの崇高さも認めつつ、しかしProphet-5と同じ音世界を味わいたいのなら程度の良い中古のProphet-5を買えばそれで済むことだったりします。デイヴ・スミス自身、今作のProphet12はフルスクラッチで新設計したと言うのだから、そこにノスタルジーを求めるのは全くの見当違いであり、僕らは次に来る何か?を見定める事が肝要なのかもしれません。

デモ音源試聴の日々

 求めているものが「音」であるなら、インターネット時代の恩恵を最大限に得ることが出来ます。発表から数ヶ月後、ネットにはβバージョンの実機を用いた数々のデモ音源が公開され始めました。幾多もある中から、製品の特徴を掴むためのサンプルとして適当なものを紹介。

 まずは比較的早い時期に投稿されたこのデモ動画。M83「Teen Angst」を題材にProphet12のパフォーマンス面を伺い知ることが出来ます。鍵盤上をアッパーとロワーにスプリットして2音色で演奏しているということはつまり、レイヤーを重ねて6音ポリの複雑な音も作ることが出来るということなのですが、個人的には2分10秒から登場するノイズで変調されたようなリード音が所謂Prophetらしさが出ていて好みで、この手の音色が簡単に作れるようだったら良いなと思いました。変調元としてのノイズを搭載しているかどうかは(単にプリセットを選ぶだけのものではなく)音作りの為のシンセサイザーとしては重要なポイントです。

 もっと本体プリセットの音色を聴いてみたいと思い始めたタイミングで出てきたのがSoundCloud経由のデモ音源です。この他にもいろいろな人がそれぞれのデモ音源をアップしていますが、一番バリエーションがあって分かり易いものはこちらでしょうか。

現時点で僕が求めている音とは…

 このようにして実機が発売されるまでの半年間、様々なデモ音源を何度も何度も繰り返し聴いて比較しつつ過ごしたのですが、数多くいるであろうシンセマニア、あるいはProphet愛好者の間ではどのような評価がなされたのか。いや、他人の評など構わず、熱狂と冷静の間を揺れ動く自分の気持ちに素直に向かい合ってみると、果たしてそこには期待していたような「新しさ」は聴こえてこなかったように感じます。久々のハードウェア・シンセであり、フィルターはカーチス製チップを搭載しているとは言うものの、デジタル・オシレーターによる多彩な音源波形はしかし、かつて聴いたことのある音色の範疇を超えて来るようなものでもありませんでした。悪く言ってしまえば「いつか聴いたことのある音」、巷に溢れているソフトウェア音源で簡単に代替できてしまえる音色のような気がして、いまひとつインパクトに欠けていたというのが正直な気持ちです。

 では一体僕はこのProphet12にどのような音を期待していたのか。現在、僕がメインで使用しているのはNord Rack 3で(最近Nord Lead 3からラック版へ乗り換えました)、これはサンプリング音源を含まない「純粋な」デジタル・シンセでありながら出てくる音がバラエティに富んでおり、アナログシンセに準じた比較的安易なエディット方式を採用しつつも時に予測不能な結果を出してくれたりして音作りの楽しさを今もなお提供してくれる貴重なハードウェアなのですが(Prophet-5で作っていたような音色に近いものも作ることが可能)、そこに何か別のテイストを付加してくれるようなキャラクターの音源を求めているようです。それはおそらく純粋なアナログ・シンセサイザーなのだろう…と、そんな事を考えていた時、まるで脈絡なく降ってきたのが何故かYAMAHA CS-80でした。いや、もっと範囲を絞って言えば、TOTOでもエディ・ジョブソンでもなく、ヴァンゲリス(VANGELIS)の弾くCS-80の音色を思い浮かべていたのです。

突然ヴァンゲリス

 ヴァンゲリスと言えば僕がまだ小学生の頃から「シンセサイザー・ミュージック」の代表格として名が知れていたのですが、近年では何と2002 FIFAワールドカップの公式アンセムの音楽も担当していたらしい(というのを実はつい最近知ったのですけど)。一体どんなポピュラー街道を歩んでいるんだよ!と思ってしまったのは、昔まだ小学生の頃にラジオでオンエアされた『霊感の館パート1』という、ワールドカップ以降に彼を知った今時のヤングには想像も出来ないような前衛的な作品をカセットに録音して繰り返し聴いていた時期があったりしたからなのですが(よくもまあ、こんな曲をラジオで流したものです)、やはり我が国において彼をメジャーにしたのは映画音楽、特に『炎のランナー』『ブレード・ランナー』『南極物語』ではないでしょうか。誰でも一度は聴いたことのあるそれらの音楽の中で、必ず聴こえてくるのがヴァンゲリスの愛でるCS-80の音色なのです。

 CS-80を所有しているこの動画投稿者が奏でているメロディと音色。これらも聴いてすぐにそれと分かるくらい記憶に残っているものですが、特に1分20秒からプリセットを切り替えて奏でられるかの有名なSF映画で使われているメロディはグッと来るものがあります。伴奏を伴わない、たかが指1本で弾くフレーズであるにもかかわらずです。この生々しさ、シンセサイザーから発音されているとは思えないような「まるで生きている楽器」が鳴いているような音に聴こえます。

追記(2013.7.16):なんか世間が「ポール・マッカートニー来日」で沸いているようなのですが、実はここだけの話、彼のCDは一枚も持ってないのだけれど(嫌いというわけではなくて、どの曲も有名過ぎて所有する必要を全く感じないのです)、ここはCS-80繋がりで上の投稿者のもう一つの動画も貼っておきます。ちょっと弾いた後にレゾナンスを調整する所がグッド。しかしイイ音出してますな!

 こちらの動画ではヴァンゲリスが簡単に自分の作曲過程を紹介しているのですが、そこでCS-80の持つ独特なタッチセンス付き鍵盤の効用を見ることが出来ます。学生の頃、ブレード・ランナーのLDを繰り返し視聴していた時期があったのですが、作中に流れる『Blade Runner Blues』で使われているリード音は一体どんな楽器を使っているのか当時は全く分かりませんでした。発音してからそれが持続している途中で音量やフィルター、ビブラート等がダイナミックに変化していくところは「ブレスコントローラーでも使ってるのかしら?」と思ったのですが、おそらくこれもCS-80なのでしょう。同じような傾向の楽曲として『南極物語』に収録の「Song of White」のメロディの音色も非常に個性的な鳴り方をしていて、まるで本物の管楽器のような振る舞いを見せます。

 もう何年も再生ボタンすら押してなかったヴァンゲリスの楽曲が突然聴きたくなったのは、おそらく彼の奏でるシンセサイザーの音色の独特な生々しさがあってのことです。つまりダイナミクスに飢えていたということなのでしょう。今どきベロシティを受け付けないシンセなど無いのだけれど、楽曲の方がシンセの音色にダイナミクスなぞ求めていないものが多く(そういう場合は生楽器のサンプリング音源で代替されてしまう)、その結果、今やシンセサイザーは多彩な音源を搭載していながらも、オルガンのようにダイナミクスを付加せず弾くような状況が長年続いてきたことの反動が起きているのが分かります。著名なCS-80オーナーは数多くいたのですが、ヴァンゲリスのようにタッチセンス鍵盤を活かした演奏をする人もほとんど居なかったように思います。例えば所有しているジェネシス写真集にはトニー・バンクスとCS-80が写っている写真があるのですが、ジェネシスの楽曲にCS-80のダイナミクスを必要とするパートはほとんど無かったと思います。

ヴァーチャル音源なCS-80V

 YAMAHA CS-80の特徴は、当時としては珍しいポリフォニックだった!ということよりも、定価128万円!だったことよりも、重量が82kgもあった!ということよりも、何を置いてもやはりその「鍵盤」にある。そしてその鍵盤を活用した音色とそれを必要とする楽曲の幸せな出逢いを仲立ちしたのがヴァンゲリスだったということです。
 もちろんCS-80は既に生産完了品で、程度の良い中古が時折eBayなどで出品されることはあるものの、パーツ合わせて重量90kgにもなるようなメガトン級楽器をアパート部屋に設置できるわけがありませんし、メンテナンスに出すのも困難です。ここは大人しくソフトウェア音源化されたArturia CS-80Vのデモ版をインストールしてその雰囲気を感じてみようかと思いました。

 早速iMacにインストールしてMIDIキーボードを介しプリセットを一通り弾いてみます。基本的なアナログ波形しか持ち合わせていない、構造としてはシンプルなシンセではあるけれど、独特な何かを持っているような感じはします。とは言いつつも、僕は所謂ヴァーチャル音源というものを過信しているワケでもなくて、同じArturia製品でProphet V2を所有しているのですが、実機と比較してみると当然ながら違う。しかも全く違う。いつか完全にProphet-5が壊れてしまった時に対処するため、バックアップ用にこれまで作成してきたオリジナルの240音色をシステム・エクスクルーシブ経由でチマチマとProphet V2へインポートしてみたのですが、残念ながら何となく雰囲気は似てはいてもオリジナルを代替出来るほどの完全コピーを実現してはいませんでした。

 ただ、CS-80の場合はオリジナルの音を直接聴いたことがない事もあり、最初からヴァーチャルに接すれば違和感も覚えないのかもしれません。というよりはむしろ、CS-80をCS-80たらしめるのは、その音色をコントロールする鍵盤とのコンビネーションの方が重要。そしてこの時初めて気が付いたのでした、普段使用している入力用MIDIキーボードのアフタータッチ(キープレッシャー)が壊れていることに…。

Aftertouch付きMIDI Keyboardが市場から消えてゆく

 いろいろセッティングを調べ、ドライバー&エディターからも本体の状態をチェックし直したり、音源もソフトウェアやハードウェア等アレコレ差し替えたりしてみたのですが、やはりどうもアフタータッチのセンサーが壊れてしまっている模様(あえてメーカーは伏せておきます)。今まで気が付かなかったのも上述した通り、自分が作ってる曲もベロシティは使っているけれど、アフタータッチを用いるような音色を必要とする楽曲では無かったからです。そして今度はアフタータッチを巡る旅が始まりました。

 オリジナルのYAMAH CS-80の鍵盤は当時としては非常に珍しい、ポリフォニック・アフタータッチを実現していました。これは押している鍵盤の個別にアフタータッチが掛けられるというもので、MIDI規格の登場直後は一部の高級シンセサイザー等に搭載されていました。例えばProphet-T8YAMAHA DX-1というような定価数百万という機種です。その後、しばらくしてからKurzweil MIDIBOARDやRoland A-50 & A-80というポリフォニック・アフタータッチ搭載のMIDIコントローラーが登場しました(でも数十万円)。実はヴァーチャル音源のCS-80Vもこの「Polyphonic Aftertouch」を受信出来るようマニアックに設計されているのですが、しかし、このPolyphonic Aftertouch機能を搭載しているMIDIキーボードの方が今や主要メーカーのカタログから消え失せてしまいました。鍵盤個別のポリフォニックではなく、チャンネル全体をひと括りにして単一送信する簡略版のChannel aftertouch(あるいはモノフォニック・アフタータッチ)を搭載しているタイプはまだ若干見られるのだけれど、このチャンネル・アフタータッチ機能を搭載しているMIDIコントローラーすらどんどん市場から無くなっているのです(今回、この件を通して初めて気付きました)。これは需要が少なくなっていることもあるだろうし(例えばRolandのINTEGRA-7に搭載されているSuperNATURALシンセ・トーン音源では、アフタータッチを受信するものの、フィルターの開閉と音量にしかアサイン出来ません)、打鍵によりセンサーが壊れやすい事や、安価に抑えるための部品削減も理由かと思うのですが、しかし音楽表現の幅が狭まっていく事の方が懸念されます。というか直近の切実な問題として、ヴァンゲリスの真似が出来ないではないか。それは由々しき事態です。

アフタータッチ付きキーボードとしてのProphet12?

 良質なアフタータッチを備える鍵盤を持ったキーボードをどう手に入れるか。中古ならENSONIQの一部のシンセで希望に合致するものもあるようなのですが、故障したときのメンテナンスで対処出来ないような気もします。そして上述の通り、最近発売の新製品からはほとんどアフタータッチ機能は省略されています。オシレーターがどんな音源を採用しているかよりも、いつの間にか鍵盤の仕様の方が重要項目になってきました。何せ40年近くも昔のCS-80のオシレーターなんて何処にも複雑なアイデアなどないのに、鍵盤の造りだけで楽器としての個性を確立出来ているのですから。

 そんな事をアレコレ思い巡らせていたら「そう言えばProphet12のキーボードってアフタータッチ付きだよねえ」と再びProphet12に舞い戻ってきました。こちらのデイヴ・スミス本人によるProphet12の紹介ビデオ(←)を見てみると、この中の2分43秒辺りからリード音を奏でている箇所でアフタータッチを使っているのが確認出来ます。

 アフタータッチをまだ見捨てていない。今となってはそれだけでも感動的なのですが、気になるのはそのアフタータッチ機能をどこにアサイン出来るのかどうか。フィルターやVCA、ビブラートは当然ながら、モジュレーション・マトリックスによる柔軟なアサインが可能なのかという点が気になります。そして先月Ver.1.0の英文マニュアルが公開されモジュレーションの割当先一覧が分かりました。これだけのパラメータがコントロール出来れば、リアルタイムでの面白い表現が出来そうです。

何はともあれ実機のProphet12で確かめたい

 その他に取説を眺めていてある程度分かったのは、鋸歯状波や矩形波などのクラシックなアナログ波形の他に、12種類のデジタル波形、そして3種類のノイズが搭載されていること。先にも書いた通り、ノイズを搭載しているか否かはシンセを選定する段階で非常に重要なポイントになります。僕が最初に手に入れたシンセはRoland SH-101なのですが、これはモジュレーターにノイズが搭載されており、それを用いてVCOのピッチを変調することが可能だったのですが、そうして得られる不安定な音色は他で代替不可能なテイストを持っていました。ノイズにも様々なキャラクターがあり、Rolandの採用していたホワイト・ノイズは軽ろやかで楽音向きだったのです。そんな諸々を考えていたら原宿某所で展示されているProphet12の実機を実際に試してみたくなったので、スタコラさっさと出かけてきました。以下の感想は、試奏約30分程度によるものなでしかなく、あくまで単なる印象のメモ書きとして参考までに読んでください。

DSI式Wavetableデジタル・オシレーターの素の印象

 まず一通りプリセットを聴いてみてから各ツマミのパラメータを初期状態に戻して素の状態の波形を聴いてみます。クラシック波形は従来通りの感触なのですが、デジタル波形12種類に関しては特に新鮮な感じはありませんでした。ローランドやコルグの音源でも普通に聴けそうな感じで、精度的にちょっと粗い気もしたのですが、今どき8ビットや16ビットということもないでしょうし、そういうテイストを狙ったものなのかもしれません。

アドバイスとして、試奏する際にはスタッフの許可をいただき、普段使い慣れているヘッドフォンでリスニングするのがベターと思います。展示場所の試聴環境が良いとは言えない状況なので、ヘッドフォンの方が細部を把握しやすいです。

オシレーターや波形自体の変調でバリエーションを増やす

 何もしない素の状態でのオシレーター波形の印象は今一つだったのですが、4つもあるオシレーターを相互に掛け合わせたり、波形自体を変調させることで多くのバリエーションを得ることが出来ます。昔ながらのシンクや、FM変調にAM変調、そしてPWMのようなモジュレートをデジタル・オシレーター波形でも行なえるのです(ちなみに鋸歯状波や三角波、サイン波もPWMのように変化させられます)。NAMMショウでデイヴ・スミスがインタビューに応えているビデオ内で「Wavetable」という言葉を聞いた際は、PPGやWaldorfのWavetableをイメージしたのですが、フタを開けてみればそこにはたった12種類の波形しかありませんでした。思わずズッコケてしまったのだけれど、そこはProphet VSやWavestationの生みの親、その12種類の波形を連続的に変形させることが出来るのです。

 ちょっとピンボケしてしまいましたが、下の写真のディスプレイを見てください。現在選択している波形が「Nasal」。その右側に「Boing」「Buzzzz」とあります。これはNasalを中心に置いてBoingとBuzzzzへ連続的に変化させられる、というセッティングになります(ちなみにクラシック波形とノイズは単体のみでのWave Shapeは出来るのですが、この異なる波形間でのモーフィング機能は適用出来ません)。

Boing <--> Nasal <--> Buzzzz

 これは単に音量のミックスの割合を変えているのではなくて、いわば波形を左右の波形へ連続的にモーフィングさせているような感じ。ここでは右側の波形に「4」だけ寄っている状態です(最大64まで振ると完全なBuzzzzになります)。もちろんその変化量はLFOやエンベロープ、あるいはホイール、アフタータッチなどを割り当ててコントロール可能です。波形がリアルに変化していく様子はディスプレイ左側でグラフィカルに視認できるのですが、このディスプレイも非常に美しくて上品な出来栄えです。付け加えると、Prophet12は写真で見るよりも丁寧で上品な造りになっています。

 そして個人的にはノイズのチェックも忘れずにしておきたいところ。Prophet12ではポピュラーな「ホワイト」の他に「レッド」「バイオレット」という馴染みの無いキャラクターのノイズが搭載されています。今回はホワイト・ノイズをチョイスし、それを使って他のオシレーターのピッチを変調させてみたのですが、なかなか良い具合に不安定なノイズ系の音色を作ることが出来ました。特筆すべきは、これらのノイズもWave Shape出来るという点。素の状態のノイズから、高域成分を多く分布させたノイズ、あるいは低域を強調したノイズへと連続変化させられます。Prophet-5のノイズは一定だったので「もう少し軽いホワイト・ノイズが欲しいのに」と思っていたユーザーにとっては嬉しい仕様です。

 こうして4つもあるオシレーターで発生させたデジタル波形は、各々の音量をミックスした後に新しい「CHARACTER」セクションに送られます。ここも完全なデジタル処理でEQっぽい効果を与えたり、ビットレートを落としたり、デジタルなサチュエーションを付加することが可能。ただ、過去の経験上、デジタル音源に移行してより多彩なモジュレーション機能を有しても、果たしてそれが独自の強いカラーを産み出すことに直結するかどうかは結果を見てみないと分からないということで、例えば以前所有していたWaldorf MicroWaveは、その後デジタル化を進めたMicroWave II、MicroWave XTへ進化しモジュレーションも豊富になりましたが、出音の印象は決して良くなかったのです。僕はそれら3機種を同時期に全部所有していたのだけれど、結局、ここぞ!という時に採用する個性を持ち合わせていたのは初代MicorWaveでした。

果たしてフィルターの切れ具合は?

 こうしてデジタル領域で処理された波形はようやくアナログのフィルターへ送られます。オシレーターセクションだけでかなりバリエーションが得られることは分かったのですが、フィルターの切れ具合も楽器のキャラクターを決める重要な要素。この部分が自分の好みに合うかどうかも確かめておきたい…。
 しばらく試してみた感想なのですが、このフィルターとエンベロープの兼ね合いというか、フィルターのキャラクターを決めるエンベロープの切れ味の設計具合というか、それがどうも自分の欲しているポイントから微妙にズレているような気がします。個人的にはやはり使い慣れているProphet-5のコンビネーションの再現を切望してしまうのだけれど、どうも期待したようなアタック感が出てこない感じがします(例えばProphet-5でよく作る琴系の音色のようなアタック感の強い感じが出ない)。

 ここは前段のオシレーター・セクションで作った音色との兼ね合いもあるかも知れず、また絶妙なスイート・スポットがこの短時間で見つけられなかったのかも知れず、今回の僕の個人的ファースト・インプレッションでネガティヴな印象は持たないでください。可能な方は是非実機の試奏をしていだき、ご自身の判断をお願いします。たかが30分程度でシンセの全ては判断出来ませんから。

そしていよいよ鍵盤へ

 シンセサイザーとしての音色チェックはここまでにして、次はいよいよ鍵盤の感触、もちろんアフタータッチで使われているセンサーの掛かり具合、扱いやすさ等を確かめることにします。ベロシティのアサインは、フィルターやVCAなら本体上にあるツマミだけでも簡単に調整可能。アフタータッチはモジュレーション・セクションで割当てるのですが、その割当て方法もものすごく簡単です。ソース・ボタンを押しながら鍵盤を押し込むとアフタータッチが自動的に選択されるので、そのまま次にディスティネーション・ボタンを押しながら効果を与える先のツマミを少し動かすだけで終わり。先の一覧表にあった項目へ簡単にアサイン可能です(この辺りの割当方法はNord Lead 3の操作系に近い)。アフタータッチでオシレーター波形のSHAPEを変化させるということも当然可能だし、今回新たに装備された2つあるタッチセンス付きスライダー(指でなぞるとLEDが光ります)をうまく組み合わせれば、よりパフォーマンス重視のコントロール・セッティングも出来そうです。

 アフタータッチ自体は軽くもなく重くもなく、適度に調整されて意図通りに掛けられるような気がしました。もっと丁寧に調整し作り込んだ音色と上手く組み合わせられれば、より個性的な演奏も可能なような気がします。

まとめ

 今回はProphet12への強い興味が何故かヴァンゲリス経由で突然CS-80へ流れ、さらにアフタータッチ機能搭載鍵盤を探しているうちに再びProphet12へ舞い戻ってしまった、という、どうやっても上手くまとめられない記事になってしまったのですが、個人的には小学生以来久し振りにヴァンゲリスを聞き直す機会になったというか、先日も『霊感の館』を買って聞き直し、メロディらしいメロディもなくアバンギャルド(悪く言えばテキトー)な内容なのに意外にも曲の展開を覚えていることに驚いたり、また『南極物語』の中古サントラCDを買ってきて、そこで初めてテーマ曲が「7分30秒もある」ことに驚いたりしたのだけれど、というのも割と買っている人も多いだろうヴァンゲリスのベストCD『Themes』などに収録されている南極物語のテーマは3分55秒に端折られているのですね。で、この短いバージョンを聴いて「どうも以前聴いた印象と違う…」と思っていたのですが、その理由が数十年の時を経て分かりました。

 実は中学生の頃、南極物語のシングル・レコードを買っているのですが、このバージョンは「4分45秒」なのです。

 僕は純粋にこの「4分45秒」バージョンをオリジナルと思っていたのですが、近年のベスト盤(オデッセイ~ザ・ベスト・コレクション)などでもやはり「3分55秒」。「あれ?この曲フェードアウトだったっけ…」とか思いつつ、そこまで深く追求するほどの事でも無く忘れてしまっていたのだけれど、今回初めて「7分30秒」のオリジナル音源を聴いてみて、そうそう、最初に買ったEPのエンディングはこのオリジナルと同じだったとか、EP盤にもベスト盤にも採用されずカットされているパートが分かったりとか、いろいろ発見があって楽しませてもらいました。しかし彼のストリングス、いい音してますね。

 というか、何故中学生の時に『南極物語』のEP盤を買ったのかその理由を改めて考えてみたのですが、やはりそこにはYMOのProphetでも冨田勲先生のMoogでも無い、ヴァンゲリス独特の、しかし各人共通の「ひとつのシンセサイザーを究めた」結果として初めて実現できる確固な音世界があって、それを敏感に感じ取っていたからだろうと思った次第です(まったく後付けだけどな)。今後、Prophet12が、それを手に出来た幸運なユーザー達からどのように評価されるのか分かりませんが、長い年月をかけて使い込んでようやく道具として手に馴染んだ瞬間の感動というか、まあ、そんな感じの時が訪れれば良いですね。ちなみに映画『南極物語』はまだ観たことがありません。あ、そう言えば『炎のランナー』も未見でした。

今回はあえてJames BlakeのProphet’08には触れてませんが、’08搭載のノイズより12のホワイト・ノイズは軽くて楽音向けです。それにしても定価399,800円、まあ、それだけが問題だ。