連載第33回
2013年2月18日
暖房機 Mac Pro Early2008 強化作戦:X5460 3.16GHz CPU換装(4)

 前回、CPUを交換してようやく元の姿に戻ったMac Pro(Early2008 MA970J/A)。電源ケーブルとモニターケーブルを繋いで、いよいよ電源ボタンをオン!と押してはみたのですが、起動音がしない…。電源ランプは点灯しているけど、まるで鳴る気配がない。
 電源ボタン長押しで強制終了させて再度押してみたけれどやはり起動音がしません。そこで普段使用しているロジテックのK750を使ってPRAMクリアなどしてみたのだけれどやはりダメ。さすがに「壊れてもいいや」みたいに強気でいたものが、やんわりと冷や汗など出てきたりなんかして「あれーー?どこでしくじったんだろう?」と過去数時間を脳内プレイバック。しかしまるで思い当たるフシがありません。中古で買ったCPUが元から壊れていたのかしらん、とか疑ってみたり。

 幾度か再起動にチャレンジしてみたけどまるでダメだったので、ここで物事がうまく行かない時の定番行事、珈琲ブレイクが入ります。気分を落ち着けながらしばし考え、その昔、Mac互換機にCPUアクセラレータカードを挿した時などは、まずいきなりうまく起動することなどなくて、数時間から丸一日放置しないと起動しないケースなどあったよなあ、と思い出に浸りながら、ふと「キーボードはワイアードで繋げないとダメなんじゃないか」と思い当たりました。そこで押し入れからワイアードなApple USBキーボードを引っ張り出して来てMac Pro本体に直に接続。電源ボタン投入と同時にPRAMクリアでようやく起動音が鳴り響きました。まあ、クリアはしなくても鳴ったのかもしれませんが、しばらくするとデスクトップも現れたということで、結果オーライ。

 早速「このMacについて」を見てみると、ちゃんと「2 × 3.16 GHz Quad-Core Intel Xeon」と表示されています。まずはホッと一安心。

まずはGeekbenchで比較してみる

今回はCPU単体の実効能力を単純比較するためにGeekbenchを使ってみます。正式のアプリ版はApp Storeで購入できますが、とりあえずフリーのダウンロード版で「32bit環境」で計測してみたのが下記。上はCPU交換前の2.8GHzオリジナルのもの、下は3.16GHzに交換後のものです。

 オリジナルの2.8GHzからコア単位で360Hzのスピードアップ。結果、それなりの性能向上は果たしているようです。ではこのカスタムMac Proは、Macintosh全体でどのくらいの位置にいるのか。Geekbenchのサイトではユーザーが計測した結果をアップしいて、ズラリと一覧出来るようになっています。→ランキングはコチラ。

 ベンチ結果に誤差は付き物なので大きな心で数値を見ることにして(今回の計測値が、early 2008 モデルで当時一番ハイスペックだった3.2GHz×8コアより高くなっているのはご愛嬌)…とは言ってみたものの、Mac mini(Late 2012)にすら負けているのが衝撃的です。考えても見れば発売から5年も経っているわけで、それからインテルCPUの世代はどんどん更新され性能も飛躍的向上を果たしているのですから当然なのは分かるのですが、でもやっぱり愕然としてしまいます。さて、この結果をどう解釈するか?

そもそも何故CPU交換したのか

 単純にベンチマークの数値だけ見比べていても全く自分の納得出来る解釈が出てきそうにはありません。そこで一端初心に返って、そもそもどういう理由でCPU交換に踏み切ったのかおさらいしてみます。
 まず本ブログ記事タイトルにある「暖房機」の文字、Mac ProのCPU交換ネタを検索してきた人が見たら全く意味不明であるに違いありません。ここでもう一度説明しておくと、僕はこの冬、全く暖房機の類(エアコンや赤外線ヒーターやコタツ等々)を使わずに過ごしているのですが、部屋を見渡して最も熱を発しているのがこのMac Proだったりするのです。そのMac Pro本体からの排気熱をダダ漏れさせていても勿体ないので、有効活用しようと目論んだ記事がコチラの2つになります(↓)。

 これら迷走の末、本体背面から集めた排気は部屋の気温はもちろんのこと、期待したほど僕の身体を暖めてはくれなかった…という残念な結果に終わりました。しかし一度のチャレンジで挫折するのも惜しいネタだし、ここはもう少し追求してみようと考えました。

 付け加えると、ここ最近Mac Pro本体の調子が非常に悪くなってきたこともあります。作業中に突然シャットダウンしたり、リスタートしたりすることが多くなりました。さらに趣味の音楽作業においては、2.8GHzの8コアでも最新プラグインの動作が重く感じられるようになったりで、購入から5年経ったしそろそろ作業マシンを性能アップしてもよいタイミングだろうとも思いました。

 さて、そうなると自然に、「壊れてもOK、最も高温になる部位であるCPUをさらにエネルギッシュな物に交換してしまおう!」という発想になります。ではこのMac Pro(Early2008 MA970J/A)はどんなCPUに交換出来るのでしょうか。手っ取り早い確認方法として、まず「Mactracker」というアプリケーションで当時のラインアップを見てみます。ちなみにこのMactracker、過去のマシンの仕様などを調べるのに非常に重宝していて通常のMac版アプリの他に、iPad用アプリもインストールしてしょっちゅう比較検討していたりします。無料です。

 さて、当時のMac Pro(Early2008)を見てみると、使用されていたCPUはコードネーム「Harpertown」と呼ばれていたXeon 5400系。最下位モデルは2.8GHz 4コアのシングル。僕の購入したのはその2.8GHzのE5462が2個(8コア)のタイプ。その上が3.0GHzのX5472が2個(8コア)、最上位が3.2GHzのX5482が2個(8コア)。それぞれのCPUの詳細は次になります。

●Intel® Xeon® Processor E5462 (12M Cache, 2.80 GHz, 1600 MHz FSB)
●Intel® Xeon® Processor X5472 (12M Cache, 3.00 GHz, 1600 MHz FSB)
●Intel® Xeon® Processor X5482 (12M Cache, 3.20 GHz, 1600 MHz FSB)

 もう何年前になるのか、ジョブズ不在のAppleがMacOSを他社にライセンスしていた時期があって、その頃販売されていたMac互換機を僕も愛用していました。本家AppleのMacintoshよりも使い勝手が良くて、標準ベアボーンキットを自分好みの仕様にカスタマイズしていく楽しみはこの時に知ったのだけれど(まあ、それ以前にもSE/30をカスタマイズしまくっていましたが)、もちろんCPUのアップグレードも手を変え品を替えて色々試していたものです。僕のMac互換機(UMAX S900)はマルチプロセッサ対応で、購入時はシングルのPowerPC 604eだったものを後に同速度のドーターカードを追加して250MHzのPowerPC 604e×2個のデュアルCPU構成にしてみたことがあります。そこで学んだのは「CPUを倍にしても、作業処理速度が2倍になるワケでは無い」ということでした。例えばシングルCPU時、処理に100分かかるレンダリングは、デュアルにしてもせいぜい70〜80分くらいに短縮出来る程度だということです。アプリのプログラミングにもよるのでしょうが、状況によってはシングルのまま動作周波数の高いものに交換した方が良い場合もあります。結局、その後に登場したPowerPC G3やG4のアクセラレーターカードはシングルではあるものの新世代設計による劇的進化により、一瞬で604eマルチプロセッサでの作業を過去のものにしてしまいました。あのスピードは衝撃だった。

 そういう経験もあって、上記リストのうち中間のX5472(3.0GHz)への交換はナシ。というのは、コア当たり200MHzのアップではほとんど使用感なんて変わらないだろうからです。では最上位のX5482(3.2GHz)に行くか、と思ったのですが、当時このX5482はこのApple Mac Proだけ特別に提供されていたように記憶しています(うろ覚えだけど)。しばらくは一般に出回らなかったCPUだったようで、中古市場でもちょっと値段が高くてお試しするには躊躇われました(最近は高くても2個セット2万数千円に落ち着いているようです)。そこでMac Proのラインアップには無いけれど、同じLGA771ソケットで互換性があると思われるX5460を試してみることにした、という次第です(↓)。これは熱そうだ(あくまで目的は暖房力強化です)!

●Intel® Xeon® Processor X5460 (12M Cache, 3.16 GHz, 1333 MHz FSB)

 これまでのレポートのように、たぶん大丈夫だろうという期待は叶って、X5460でもMac Proは問題なく動きました。では次に2ヶ月ほど使ってみての感想を。

CPU交換して気持ちよかったこと、気付いたことなど

 上で紹介したMactrackerがあれば、これまで販売されてきた数多くのMacの相対的な性能は把握できます(各機種のクロック数のリンクをクリックすると、Geekbenchでの測定値が表示されます)。なので、今回CPUを換装して2.8GHzから3.16GHzにスピードアップした後のおおよそのポジションは事前に分かっているわけで、その意味では最新のMac miniにちょっと負けちゃったという結果には、もちろん驚愕したとは言え、明日から生きていく希望を失わせるほどのものではありません。むしろ今回は実にささやかな「やっと3.0GHzを超えることが出来た」という達成感だけで十分元が取れた感じがします(交換作業途中ではいろいろ予期せぬハプニングがありましたし)。また、そこには少し別の「無事元通りに動く状態へ戻せた」という達成感も含まれていたりします。小学低学年の頃、家の裏で目覚まし時計をバラバラに分解して内部をのぞき見たことに満足した後、さて元通りに組み立てようとして全くそれが不可能だった敗北感がずっと今も記憶に残っているのですが、そのせいか、一度バラバラにした機械を元に戻してそれが以前と同じように動く、ということが凄く感動的だったりするのです、自分にとって。

 また、これはCPU交換とは直接関係ないのだけれど、ソケットに到達するまでに数々のパーツを取り除いていく過程で、Mac Proが如何に練られて組み立てられているのか、ということにいちいち感嘆しながら分解できたことがとても良い体験になりました。例えば本体側面のフタを開けたときに、あの嫌悪すべきケーブル類のみならず、たかが「ネジ頭」でさえ全く見えないようにするという、一般の人からすれば全くどうでも良い事に物凄くこだわっている所などは、僕も今回の分解行程を経なければ気付かなかったと思います。その見た目の美しさを実現するため、加えて動作時にまるで気にならないほどの静音性を実現するために設計された各種内部パーツの配置の妙など、昨今ソフトウェアばかりに注目が集まる関連業界の中で「モノづくり」でまだ人を感動させられるという職人魂を見せつけられた気がしました。

 さて、そんな個人的な昔話等はさて置き、動作は非常に軽快で快適。以前導入したSSDと、コア当たり360MHzも盛ってやったという心のバイアスもあって、アプリの起動やら操作中の動作やら、これまで目の前に覆いかぶさっていた一枚のベールを取り払ったという感じは確実にあります。
 またスピードアップに相応な各種アプリの処理速度向上もありました。具体的な計測値などはまたの機会に紹介するとして、例えば動画エンコードやレンダリングなどは相応にスピードアップしています。いわゆる肌感覚というヤツで言えば、次の新しいMac Proが登場するまでは十分に続投可能な感じがします。そうそう、これは棚ボタなんですが、昨年末まで凄く不調だったこのMac Pro、今回の交換作業中に内部に溜まったホコリを出来る限り吸い取って清掃したり、各パーツ接触部分を磨いたりしたせいか、すこぶる安定度が増して絶好調になってしまいました。以前頻発したシャットダウンや起動時のリスタートはCPU交換後一度も再発していません。中古CPU2個1万5千円でこれだけ効果があったのですから、交換してホント良かったです。

CPU交換して残念だったこと

 ちょっと残念だったことは、普段使用しているアプリケーションによっては、再オーソライズの作業が発生することです。これはアプリケーション毎に採用している認証方式によるのですが、Macハードウェア本体個別のシリアル番号等で使用許可を発行しているタイプの場合、今回のCPU換装によって「これは別のMac Proだ」と認識され動作しなくなる場合があります。アップル純正アプリやアドビ系などはそのまま使用出来る場合が多くてお気楽なのですが、音楽制作で使うサードパーティー製プラグイン等では本体個別に認証しているタイプが多くて、この再認証作業にはホトホト辟易させられました。個人的にはUniversal AudioのUAD-2で採用されているような専用ハードウェアに紐付けされて認証する方式がベストと思っていて(UAのオンラインストアも使いやすくて秀逸)、UA社以外のサードパーティーもUAD-2対応版をリリースしてくれたら喜んで移行します。CPUへの負荷も減りますしね。

 この方面に関心のある人はもう既に気付いていると思いますが、上に掲載した2枚のGeekbench結果の中で、CPU交換後の方のメモリ・パフォーマンス計測値が落ちています。これは換装したX5460のFSBが1333MHzのため。僕のMac Proは全て動作クロック800MHzのメモリを挿しているのだけれど、それはFSB 1600MHzのCPUで起動している状況で、その半分の800MHzで動作するということ。X5460へ交換後は1333MHzの半分である667MHzでメモリが動作することになるので、パフォーマンスが若干落ちているのです。しかしメモリの動作クロック低下など普段の作業上で体感できるはずもなく、CPUのクロックアップ分で相殺してお釣りが来ている感じ。特に気になる部分ではありません。

 しかし。本来の目的である「暖房機」としてのMac Pro、その機能強化は達成したのでしょうか?ちょっと負荷の高い動画エンコードなどさせてCPUを十分にヒートアップさせてみました。その結果!

…寒い。

 ちょっと気温の高かった日中(8℃くらいでしたか)にCPUフル稼働させてみましたが、背面から排気される風は何となくぬる〜い程度。まるで暖を取るレベルではありませんでした。今冬は例年に比べてやや温度が低い感じもするし、やはり大いなる自然の気まぐれに、たかが360MHz周波数を上げた程度のコアが8個集まったところでまるで歯が立たないという事なのでしょう。もう十分に納得しました。ここに暖房機Mac Pro強化作戦終了を宣言します。というか、もう暖房機の無い生活にもすっかり慣れてしまいました。変人です。

しかし、もっと腑に落ちないことがある

 またMac ProのCPU交換とは直接関係の無いことなのですが、暖房機を一切使わなかったことに平行して、実は先月の一ヶ月間、冷蔵庫の電気をコンセントから抜いてみました。昨年11月の電気代請求額が3,917円だったところ、その翌12月MacBook Airをメインに雑用など行なって過ごしてみたら何と2,809円まで急落したのがそもそもの発端。Mac ProからMacBook Airに移行しただけでそんなに電気代が下がるとは思いもせず、もし仮にこれがAir効果なのであれば、年が変わった1月さらに電気代を節約するにはもうこの部屋で言えば冷蔵庫しかない!と思ったのでした。幸い長期冷蔵保管しなければいけない食材を溜めているわけでもなく、また一般の家庭のように冷凍庫にフリーズドライされた加工食品を詰め込んでいるワケでもないので(電子レンジを持っていないので、冷凍食品なんて今まで買ったことがありません)、冷蔵庫を電源から切ってもまるでノープロブレムな状態だったのです。つまり、冬季に一切暖房機を使っていない部屋というのは冷蔵庫の一般的な設定温度とまるで変わらない室温だということ。おそらくMac Proの次に電気代を消費していると思われる冷蔵庫。これを1ヶ月もの間使わないでおけば、電気代も1000円台後半に突入するのではないか、と期待しました。変人です。

 ところがです。いざ1月分の請求書を見てみるとそこには「2,929円」の文字が…。なぜ12月の2,809円より高くなっているのだ?まあ、正月休みと連休があった分、自宅でCPUを交換した後のMac Proを普段より長い時間使っていたのは確か。ということは冷蔵庫を元から断った分をMac Proが相殺してしまったということなのでしょうか?これはちょっと納得がいかないというか…。抱いていたイメージとは異なり、普段から冷蔵庫はそんなに電気代に関係無かったということなんでしょうか??
 
 しょうもない敗北感で突然、今度はMac&周辺機器の消費電力と電気代、各々のパフォーマンスの比較などに改めて強い興味が沸いてきました。フリフリのThunderbolt大作戦、2013年はエコを志向して急展開します。