連載第10回
2012年2月18日
habit:作り直し作業その7(ピアノについて)

 ようやく自分の頭の中では最終形が見えてきた「habit」という小品のメイン音素材はピアノ。ピアノはまるで弾きこなせないが、ピアノという「モノ」にはとても魅力を感じたりします。あの静謐な佇まいは音を発せずもそこにあるだけで空間レベルを一段階アップさせるような…(まあ、そんな感じ)。しかし残念ながらアパート住まいの僕にはピアノを置くような空間はありませんし(床も緩いし)、それ以前に先立つものがありません。鍵盤を持つハードウェアとしてPCM音源ピアノも考えたりしたこともあったけれど、そうこうしているうちにMacの高性能化に伴いソフトウェアが高品質なものとなり、世に流されてソフト音源に落ち着くことになりました。

 数年前、市場にいくつか登場したピアノ音源の中からどれにしようかとアレコレ悩んでいたとき、以前の流れから大容量PCM音源のものがやはり一番リアルに本物を再現できているのだろうと考えたのですが、その頃はその手のPCM音源は非常に高価でちょっと簡単には手が出ませんでした。そこでHDへの負担が格段に少ない物理モデル音源のpianoteqを「多少、安価である」というやや後ろ向きな態度で購入したのですが、意外や意外、それからというものお気に入りのピアノ音源になりました。愛用しているモデルは「タイプC」で、それをエディットして基本プリセットにしています。

habit_DEMO
habitピアノについて ― working in progress ―
habit ― DEMO / SAMPLES ―
flfl.me

 サンプリングを使わず、ただ演算だけで生成する割にはリアルなpianoteqですが、素のままでPCM音源と聴き比べるとやや作り物っぽい感じがしないでもありません。しかし腕を持ったプレーヤーが演奏すれば、ほとんど聞き分けることが出来ないくらいの良い味を持っていると思います。今回はもう当初から「ひたすら加工する」というのが裏テーマにもなっているので、ピアノとして聴いてもらうことは端から放棄。まずは上に載せたデモトラック、頭から15秒までは素のままの音。16秒からUAD EMT140で薄くプレートリバーブをかけます。

 24秒からはそこへNI Spektral Delay。シンセのフィルターにモジュレーションを強くかけたようなフニャフニャした感じに。ピアノらしくない音にしようとユルい変調を施してみたのですが、最終的に使うかどうかは未定。ちなみにこのSpektral Delay、個人的に隠し味としてかなり重宝しているのですが、残念なことにもうディスコンになって久しく、MacOSX10.7で動くかどうか心配だったのだけれど、今のところ上書きアップデートで無事動作しています。次期OSX10.8ではどうでしょうか。とは言え、このプラグインを代替できそうなモノはいくつか登場しているので、その時が来れば諦めもつくのでしょう。

 さて、40秒からは今回のこのピアノパートのカラーを決定付けている強力なエフェクトを施します。使っているのはAudioease Speakerphone 2。基本思想は「古今東西様々な機器のスピーカー&音場をシミュレート(筆者推測)」というこのプラグイン、定番から少し変なものまで様々なエフェクトを直列にまとめ掛けすることが出来、結果的に摩訶不思議なテイストを持った音空間を作り出せます。もはや元の素材がピアノであることの意味が消失しているのですが、実はこのプラグイン、僕はピアノと組み合わせて使うことがとても多くて非常に重宝しています。たぶん「ゴドー」でも活躍すると思います。