連載第24回
2023年6月4日
QUANTEC YardStick 2496をWEBブラウザで遠隔操作する

前回で無事ファームウェアをバージョン4.2にアップデート完了し、晴れてウェブブラウザからアクセス可能となったQUANTEC YardStick 2496。早速、上図の「Parameters Panel」をクリックすると、ポップアップウィンドウが開き、そこで操作可能なパラメータが表示された。

感動である。

ファイルのやり取り以外の、パラメーター遠隔操作だけならMojaveの古いSafariでも可能である。遅延もごく稀に引っ掛かりを感じるくらいで、ほとんど気にならないし、とにかく主要なパラメーターがMacの画面を見ながら操作できるのが快適で、プラグインを使っている感じである。欠点をあげるとすれば、プロジェクトでリコール出来ない事くらいであるが、あの極めて面倒臭いボタンとダイアル操作から解放されることを思えば瑣末なものである。

しばらく使ってみてようやくQUANTECの操作が理解出来てきた

パネルを呼び出すと、現在のQUANTEC本体に読み込まれているプリセットなどのパラメーター値がスライダーと共に表示される。それまではPDFの英文マニュアルを読みながら、本体のダイアルやボタンを操作していたが、なかなかその世界観が掴めなかった。しかし、ブラウザによるグラフィカルなUIを通すと、ようやく操作の流れが理解出来てきた。以下、主要な操作について備忘録。

QUANTECの独特なファイル管理操作を理解する

アーカイブA&Bの意味

上図のグリーンの矢印で示した、リバーブの各パラメータについては、特に説明を読まなくても何となく分かる(実際に使ってみれば、勝手な脳内設定を更新してさらに理解が進む)。しかし、一番難儀だったのは、ファイル管理の部分である(ピンクで囲った部分)。UIを通して、ようやく普通に使える程度には理解出来たので、ザックリとメモしておく。

QUANTEC本体には、いくつかのファクトリープリセットが保存されているので、まずはそれを読み込んでから必要に応じて細かなエディットを行い、今後も必要であればユーザープリセットとして別名保存する。そのファクトリープリセットは、アーカイブA、アーカイブBに格納されている。実は、このA&Bの中身は同じで、なぜ2つに分けているのかわからない。これが序盤の取っ掛かりで「???」となった原因でもある。しかし挙動が分かってしまえば「まあ、そういう仕様にしたのならそれでいいか…」という感じで素直に受け入れている。個人的には「アーカイブ」と1つにした方がシンプルで良いとは思ったけれど。

それぞれのアーカイブA&Bのまず先頭に、ざっくりとしたカテゴリーがあって、上図のように「Music-Lib」「Dialog-Lib」などと区分けされているけれど、読み出しで使うファクトリープリセットはこの2つの中に格納されている。Musicは初期反射音を抑えた音楽用途、Dialogは初期反射音有りの映画ポストプロダクション用途、という感じ。もちろんどちらをどのように使っても構わない。

そのカテゴリーの下には、さらにルームサイズだったり、エフェクト的なものだったり、残響タイプ別にフォルダが分けられている。上図では、「Small Room」の「Living+F」が選択されている。

例えば「Dialog-Lib」カテゴリーにある「乗り物」フォルダ内には、オリジナルQUANTEC時代からあった「潜水艦の中」プリセットがある。

スクラッチA&Bの意味

単体エフェクターには馴染みの薄い「Scratch」という呼び名。そこに「A,B」とくれば、普通に「A/Bテスト」かな、と思う。実際QUANTECもその考え方なのだが、ちょっと操作の段取りが多くて、英文マニュアルを読んでも、なかなか頭に入ってこなかった部分。

要約すると、「スクラッチAに読み込んだプリセットはエディット用、スクラッチBに読み込んだプリセットは比較参照用(読み込み専用)」である。

先に説明した、アーカイブA&Bからファクトリープリセットを読みこむと、スクラッチA&Bそれぞれに格納される。上図では、アーカイブAからLOADした「CHall3+A」がスクラッチAに読み込まれていて(黄色)、アーカイブBからLOADした「Cathedrl」は、スクラッチBに読み込まれている(赤)。スクラッチBは読み出し専用である。
上図、ピンク枠内の右側にあるラジオボタンA,Bで、それぞれのプリセットを随時切り替えることが出来る。ラジオボタンを押すと、連動してQUANTEC本体の方でスクラッチA、Bが切り替わり、それぞれLOADしておいたリバーブを交互に比較することができる。

黄色いスクラッチAの方で読み込んだファクトリープリセットはエディット可能なので、パラメーターを弄って好みの設定に追い込んで行く。

ユーザープリセットの保存

上図のようにスクラッチAに読み込んだ「CHall3+A」をエディットして気に入ったら保存する。保存先はアーカイブS内の「Local」、その中のスロットSにある各番号である。

保存先のスッロト番号をリストから指定しておき、「Save A」ボタンを押す。名前を8文字以内で決めるが、タイムスタンプ(日付時刻)は自動的に付与される。日付が微妙にずれているのが気になる場合は、本体側でメニューを下ってタイムゾーンなどを再設定する。自分はそこまで細かいところは気にならないタチである。

これで、アーカイブA&Bに加え、Localに保存したユーザープリセットも呼び出せるようになる。

本体設定を丸ごとMac miniのローカルにアーカイブする

QUANTEC本体の設定を丸ごとアーカイブする事も出来るらしい。ブラウザのホーム画面から「Preset/Setup Archive」をクリック。ポップアップウィンドウが出てくる。
アーカイブするタイプ別でファイル形式を選べるのだが、ここは一括で「qyb」を選んでおき、「Download to Host」ボタンを押す。すると、Mac miniのダウンロードディレクトリにファイルが保存される。
そのバックアップを読み込む場合は、上図ウィンドウの右側にある、「Uploard to Device」を押す。その時は、Safariだとqybファイルが無視されるので、Firefoxを使うことになると思う。

QUANTECの使い道について思い巡らせる

これでQUANTEC YardStick 2496関連の記事は一旦終了である。まさかの2023年になって作業環境に組み込む事が出来たのだけれど、では実際その音はどうなのか?と言えば、ちょっと使い所が難しい感じがしないでもない。幾度か書いているように、リアルな残響を手軽に扱うのなら、Altiverbの使い勝手が良いし、今回、改めてその他メーカーの手持ちのリバーブ系プラグインを使ってみたら、それぞれに個性があって楽しく、再発見もあった。

QUANTECのパラメーターを弄って、Altiverbのお気に入りのプリセットに似せてみたりした。

すると、意外にもQUANTECは低域の膨らみが無くて、パッと聴いて暗い印象を持つ音色の割にはローはスカスカである。パラメーターとして「BassEdge」「BassGain」というものがあるが、それを使うと「初期反射音がディレイして後から追いかけてくる」みたいな事態となり、ほぼ使わない(それぞれ1KHz、-20dBにしておくと効果が薄れて良い)。総じて、付加した残響が「少し遅れて」発生する傾向がQUANTECにはあり、それが気になり始めると困った状況に陥る。リバーブが発生するタイミングを前後に調整できれば良いのに…と思ったが、これはそういう設計思想なのだろうから仕方ない。

個人的には、中身は極めて薄いものの、現時点でネットに存在する非常に数少ないQUANTEC記事として残せたのが感慨深い。また、本機をミックスでテストしている最中、偶発的にトラックへのアサインミスをしたのだが、そこで「あ、リバーブってこんな使い方もあるんだ!」という目から鱗のとても驚きの発見があった。「棚から牡丹餅、追加でバナナ」みたいな感じである。

余談

英文マニュアルを読んでいて、QUANTECのプラグインがなぜいつまで経っても登場しないのか分かった。

IRの作成を禁止しているのだ。今となっては、改めて現代にQUANTECをそのままプラグイン化して蘇らせる意味はほとんど見出せないので、おそらくはこのまま消滅するのでは無いかと思う。