連載第26回
2012年12月31日
2012年個人的ベストCD&ベスト映画

 CDに対して少し距離が出来たとは言え、何だかんだで今年も有名どころから全くの無名の人まで何を買ったか覚えていない程度には買っているのだけれど、最も繰り返し何度も何度も聴いたものがベストなのだとしたら、やはりシガーロス『ヴァルタリ』ということになるのだと思います。
 近年ではもう個人的にカッチリと展開が決まっているフォーマットの音楽(AメロBメロ、はいサビが来て大サビが来て、というような)には全く興味が失せてしまって、それは善し悪しとか完成度とかいう堅苦しくて頑迷な基準で判断しているワケではないのですが、それよりもただ単純に面白い音が鳴り響いているかどうかという、それは自分の中では小学生とか中学生の頃に電子音楽などにワクワクした感じを再び取り戻してる事なんだなと最近気が付きました。だから昨年のベストだったデイヴィッド・シルビアン『Died In The Wool』が、今年も引き続きこの『ヴァルタリ』に次いで多くリピートして聴いていたのも自分では納得出来ています。

 『ヴァルタリ』のリリースにあたり企画された「世にも不思議な映像実験」はとても興味深い内容になりましたし、来年5月の武道館のライブチケットも取って、これらの形容し難い音楽に対し観客がどう反応するのか非常に楽しみです。

映画ベストは主役が馬というわけではないがでは誰が主役なのかと言えばよく分からない。強いて言えば風かもしれない。

 今年2012年は「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」に始まって「メリエスの素晴らしき映画魔術/月世界旅行(カラー復元版)」で終わったのだけれど、残念ながら近年で最も映画館での鑑賞本数の少ない一年になってしまいました。その原因が気持ちにあるのか、それとも体力の衰えから来るものなのかここでの判断は先送りにしておきますが、それでも何故か特別な理由があったわけでもないのにふらりと映画館に足を運び、事前情報まるでゼロの状態で鑑賞したタル・ベーラ監督『ニーチェの馬』はこの1本だけで、少し後ろ向きだった2012年の映画体験を意味あるものに押し上げてくれたのです。

 おそらく子供の頃は、自分にとって素晴らしい作品というのは感動した!とかプロットが良くできていた!とかじゃなくて、単純に「僕もこういう映画を作ってみたい」と思わせてくれるものだったハズで、これまでもそんな作品に出会うのをずっと渇望していたように思います。そしてこの『ニーチェの馬』は怖れ多くも「僕もこんな映画撮ってみたい!」と内側からジワジワ湧いてくる喜びを久々に味合わせてくれた映画でした。2位以下を遥か彼方へ置き去りにして2012年、断トツのベスト。DVDではなく、映画館で鑑賞できたことは本当に幸運だったと思います。