まわるフリフリのフリ
放談ラジオ

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放談ラジオ ― 連載第25回

商業音楽物理パッケージ最終形態:ピーター・ゲイブリエル『So』

2012年12月31日  

 既に世間では記憶が薄れているのかもしれないけれど、今年はついこの間の10月だったか「違法ダウンロード刑事罰化」という少なくとも当時は結構話題になった出来事があって、さてそこから来年にかけて音楽CDの売り上げが上がるのか変わらないのか、それともやはり下がっていくのか…という主にお金を巡る興味がその法律に関する議論の主軸になっていたような気がするのですが、幸せなことにこれを書いている時点では昔と変わらず音楽はやはり聴いて楽しいし、それより何より「音楽は自分で作ってるのが一番楽しい」という気持ちが未だ変わらないでいるので、業界全体の盛衰には然程興味が無かったりします。個人的には音楽のみならず嗜好・娯楽品についてはこれから益々マニアックにコアに尖って分断化されていくというか、例えばクリス・アンダーソン『MAKERS』にもあったような、成功したとしても1万人程度の小さな市場規模で村化していく(お互い、隣村のことには無関心)…そんな状況になってゆくのだと思います。ちなみに『MAKERS』で注目すべきは昨今話題になった3Dプリンターや誰でもメイカーってことじゃなくて、小さな規模の市場が物理的制約を超えて無数に広がってゆく変化を指摘している部分だと考えています。

 音楽は自分で作ってるのが一番楽しい。そんな僕はバージョン6からアップデートしてDigital Performer 7を使い始めてから、プロジェクトファイルを32bitフロート/48KHzで作成するようになりました。チープな自宅作業環境では残念ながら、誰にでも納得させることが出来るようなレベルで以前との音質の違いが明確に分かるわけではないのだけれど、それでも16bit/44.1KHzというCDフォーマットで作成していた頃よりは密度が濃いし、輪郭も明瞭に感じられます。そして当たり前の展開として、一度それを体験してしまうと何故わざわざ苦労して16bit/44.1KHzに落とさなければならないのかと考え始めることになる…。レコーディングされた生の素材から差し当たって影響の無い部分の情報をそぎ落としてCDという規格パッケージに詰め込む。CDとは一体何なのでしょう?そんな小さな疑いが浮かんで、ちょっと距離が出来た…そんな2012年でした。

 さて、こんな長い前フリをするとパッケージとしての音楽CDには無関心で、もっぱらiTunes経由のDL販売を利用しているのかと思われるかもしれないけれど、実はこれまでたったの一度も音楽ファイルをネットで購入したことがありません。と書くと、じゃあお金を使わずに違法DLしてるのかと勘ぐられるのかもしれないけれど、違法も合法なiTunes(その他も同様)もひっくるめて 「mp3やAACなどの音の悪いデータを買う気なんてこれっぽっちも起こらないし、それがタダであっても興味などない」のです。iTunesでカタチの無い音楽ファイルだけを購入するのは、たぶん生まれた年代の影響が大きいのだろうけれど、どこかしら勿体ない感じが強い。あ、試聴サンプルなんかはメチャたくさん聴きますよ。気に入ったらCDを買って、iTunesにAppleロスレスで取り込みます。特に気に入ったものはさらにiPod touchにも入れて持ち歩きます。

音楽販売パッケージの最終形態か!

 確かに、距離は出来たかもしれないけれど、しかしまだCDは今のところ最も音質が良い音楽の物理販売形態に違い有りません。もちろんSACDとかDVDオーディオとか高音質ディスクもあるけれど、世間一般が普通にそれらの再生環境を自宅に備えているまでには至っていないし、たぶん、今後も広がることは無いと個人的には思います。そんな滅び逝く光学メディア終末期の商品を買うとしたら何が良いか…その問いかけに最も相応しいパッケージを購入しました。

ピーター・ゲイブリエル『So 25周年記念 (デラックス・ボックス・セット完全生産限定盤) 』

 今年の春ごろだったか、本家サイトでオリジナルの『So』発売から25周年にあたり何か動いているらしいティーザー告知があったのですが、このパッケージはとりあえず思い付くSo関連素材を今あるメディアに詰め込んでみた!というもの。リマスターCDはもちろん、各曲の初期デモテープをコラージュし完成に至るまでを聴かせる「So DNA」(個人的にはこれが一番面白かった。アイデアの勝利)などCDが4枚。もうプレーヤーを持っていないので飾りにしかならないけど重量級アナログ盤2枚。ライブと関連インタビュー集のDVD、そして写真が一杯掲載された60ページのブックレット。ピーターは中学生の頃からファンだし、『So』は以前の作品からはかなり大衆ポップへ寄った内容ではあるものの完成度は非常に高いし、坂本龍一も1986年当時に「今年のベストアルバム」ってラジオで評価していたし、大好きなスチュワート・コープランドもドラムで参加してるし、トニー・レヴィンのベースはブンブン鳴ってるし、まあそんな感じでボックス価格1万数千円(国内流通盤ボックスも併売されてるけれど日本語解説などは無く、輸入盤と内容は変わらないので輸入盤をオススメ)は全く問題にならなかった。つまりこれ、DLでは満足出来ない僕らの世代の価値観。

スタジオクオリティの24ビット音源が落とせる(期間限定だけど)

 しかしこの25周年記念デラックスボックスセット、僕が一番注目したのは年内(つまりこの記事を書いている今日まで)限定でスタジオクオリティの24ビット音源をダウンロードできるというオマケ。というか、これが目当てでした。これまでSACDなど購入してもCD互換の部分で通常の16ビット音源しか聴いてこなかった僕は、これが初の「ハイレゾ音源」で、尚且つ初のDL音楽商品ファイルということになります(しかし正式に価格に含まれた配信音源ではなくて、公式にはあくまでプロモーションとしての扱いになっています)。早速下記専用サイトに飛んで、パッケージに記されていたパスコードを入力。ちなみに4曲の720pライブ映像もDL可能になっていましたが、これは事前に知らされていなかったので嬉しいオマケ。

 DLしたハイレゾ音源ファイルを見てみるとFLACフォーマットになっていました(さらに嬉しいことに当時の未発表曲「Courage」「Sagrada」「Don’t Give Up [Alternative version]」が追加されていました)。最近よく目にするようになったこのFLACというもの、ウィキペディアで仕様を読んでみると可逆圧縮されているということで、Appleロスレスと同じような感じらしいのですが、何せ初めて扱うファイルなのでどうやって再生してよいか分かりません。もうちょっと調べてみて、下記の記事で紹介されているXLDというユーティリティを使い、ファイル変換することにしました。

外部サイト参考記事

ハイレゾ音源を持ち歩こう!- FLACファイルのiPhone同期術(高橋敦のオーディオ絶対領域)
XLDのダウンロード

 XLDの使い方については然程迷うことは無く、僕はハイレゾ配信されている素の状態で音楽を楽しみたいから、とりあえず素直にWAVを選び、オプションから「ビット深度>オリジナルと同じ」を指定して変換。iTunesに読み込んでみると問題なく再生できました。

 ちなみに配信されていた音源の仕様は24ビットの48KHz。XLDについては変換後のフォルダ指定が時々うまくいかなかったりする小さなバグは散見されるものの、構造がとてもシンプルで誰にでも簡単に使えます。今後も複雑にならないまま、バグが直れば良いなと思います。

初めてのハイレゾ音源を聴き比べてみた

 そんなこんなで手に入れた初めて商業音楽のハイレゾ音源ファイル、早速CDリマスター音源と聴き比べることにしました。再生装置はUniversal AudioのApollo、ヘッドフォンはMDR-1Rです。
 以前書いたように、音の違いはうまく言葉で表現出来ないし、読者は頭の中で想像するしかないのだけれど、オリジナル音源(チラ読みしたところレコーディングとマスターはアナログテープで、それをPRISMのADで取り込んだとか)に比べ、一般に市販されているCDリマスター盤の方は、良く言えば高域が強調されていて「元気がよい」、悪く言えば「やんちゃ」。対して配信されていたオリジナルの方は「大人向けのしっとりした感じ」とでも言うか…(でももちろん全帯域で精細感は高い)。この違いがどこから生じたのか、CD盤には意図的に若者向けのビビッドなマスタリングを施しているのかもしれません。さすがに16ビットに落とし込んだからそうなった、とは思えないのですが、仮にもしそうだとしたら僕は断然24ビットの方が好みということになります。しかし改めて聴くと、トニー・レヴィンのベースの鳴り・ウネリが凄く気持ちイイ。

 今回、期間限定という強制もあって重い腰を上げようやく体験することになったハイレゾ音源配信との出逢い。その印象は予想外に良いものでした。逆に言えば今後CDパッケージとの距離がより大きくなるかもしれないスタート地点でもあったわけですが、おそらく、一度体験すると後戻り出来ないという事がここでも繰り返されるように感じます。後は音楽業界、IT関連業界の取り組み次第なのだけれど、個人的には前述した通り、より個人的嗜好が突き進んで分断化(悪く言えば孤立化)、あるいはインディー化というか作家主義化というか、よりパーソナルなものに音楽配信は変化していく予感もします。とどのつまり、個々のスケールは縮小するので音楽だけを生業にすることがより困難になるということなのだけれど、だからこそ何にも媚びずにヤケっぱちになって放出されたものに新しい何かが発見出来るかもしれない…。どちらに転ぶにせよ、割と近い未来が今からとても楽しみです。