連載第105回
2015年12月7日
キング・クリムゾン来日公演(THE ELEMENTS OF KING CRIMSON TOUR in JAPAN 2015)

 「これが渋谷ダンジョンか…」。ずらりと並んだ改札機の前で呆然と立ち尽くす。噂には聞いていたけれど、まさに地下迷宮。今日は個人的に15年振りとなるキング・クリムゾンの来日公演(2003年の来日時はスルーしていたので)。手元に記録が無いのだけれど頼りない記憶によれば前回が2000年10月の渋谷公会堂で、いわゆる「ヘヴィーメタル期」のクリムゾンだったはず。ライヴがある日は念のため仕事を休むようにしているが、今日はどうしもて仕事を休めない状況だったのでいつも通りに出勤、無理言って早退にさせてもらったのだが、仕事の都合で東京メトロ副都心線を使ったのが初めてということもあり、地下から地上へ這い出る為の進むべき方角が全く分からない。珍しく気持ちが不安になるのも仕方ないというか、呆然としている時点で時刻が18時半を過ぎており、Bunkamuraオーチャードホールでの開演は19時なのだ。ギリギリ間に合ったけど。

最後かもしれない

 昨年11月に楽しんだYESのライブで、あんなに元気だったクリス・スクワイアが今年の6月、突然白血病で死去したのは記憶に新しい。考えれば「あの時代」の音楽界を湧かせていた人たちはもう老境を迎えつつあり、いつ何が起きてもおかしくない。同様、今回のクリムゾンの面子の平均年齢は一体幾つになっているのか。個人的には年齢にあまり興味がないというか、これを書いている時点でロバート・フリップ翁が何歳か知らないのだけれど、しかしそろそろ…という気がしないでもない。今、この瞬間を見ておかなくては。

その目でしかと見よ

 今回のワールドツアーでのこと、某国にて一人の観客が公演中のビデオ撮影を止めなかったためフリップ翁が激怒。途中でライブを切り上げて終了させたというハプニングが記事となり、日本のファンの間でも話題に。もちろんBunkamuraの会場にはその旨忠告する掲示があり、開演前にも日本語による注意を促すアナウンスの後、フリップ翁自身と思われる英語のアナウンスさえ。まるで戒厳令下のような緊張が会場に満ちていたのだけれど「トニー・レヴィン氏がカメラで撮影している間は、(観客の僕らも)撮影しても可」という(ファンには事前に知られていた)計らいに笑い声が出て場が一気に和んだのは、気の利いた演出とも思えたり。

 しかしライヴ中に皆がスマホを掲げて撮影しながら、その小さな液晶画面を通してステージを見ているという風景が当たり前のようになった昨今。今回のライブ演奏中は誰一人スマホで撮影することなく、しっかりと自身の目を使ってステージを凝視していたのがとても強く印象に残った。どこぞの映画ではないが、英国的礼儀正しさというか、マナーが人を作るというか。それでも決して窮屈ではなく、みんながこのお婆ちゃんのように自然な態度でいるということがとても気持ちよかった。結局この日は、全くカメラ撮影することなく、全て記憶に留めるだけにした。維持できないかもしれないけど。

そしてライヴは?

 僕が出向いた7日の1曲目は何と『太陽と戦慄パート1』。まさか、まさかこの曲をライヴ演奏で(しかも最初の一発目で)聴けるとは夢にも思わなかった。90年代のダブルトリオ期のような、時代の先端を模索しながらライヴで実証実験しているというような尖った気負いもなく、事前には懐メロ同窓会的なものに落ち着いているのだろうかと予想もしたけれど、彼らが若者だった頃に創り出した名曲の数々が、逆に今、白髪交じりの年齢になり、スーツで身を固めた出で立ちにピッタリはまって渋い味わいを出しているのだ(トリプルドラム構成とも相まって、つまり全く古いとも、懐かしいとも思わなかった)。この摩訶不思議な逆転現象は一体何なのか?プレイヤーと楽曲、どちらがどちらに追いついたのだろうか?

東京4公演セットリスト

https://www.dgmlive.com/news.htm より引用。リピーターのことを考慮し、全部来ても楽しめる曲順になっているのはさすがライヴバンド。

東京:Bunkamura オーチャードホール
December 7th 2015

Larks’ Tongues In Aspic Part I
Pictures Of A City
Epitaph
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) I
Meltdown
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) II
Level Five
Peace – An Ending
Hell Hounds Of Krim
The ConstruKction Of Light
The Letters
Banshee Legs Bell Hassle
Easy Money
The Talking Drum
Larks’ Tongues In Aspic Part II
Starless
Devil Dogs Of Tessellation Row
In The Court Of The Crimson King
21st Century Schizoid Man

東京:Bunkamura オーチャードホール
December 8th 2015

Peace
21st Century Schizoid Man
Epitaph
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) I
Meltdown
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) II
Level Five
Hell Hounds Of Krim
The ConstruKction Of Light
One More Red Nightmare
Banshee Legs Bell Hassle
The Letters
Sailor’s Tale
Easy Money
Starless
In The Court of The Crimson King
The Talking Drum
Larks’ Tongues In Aspic Part 2

東京:Bunkamura オーチャードホール
December 9th 2015

Peace
Pictures Of A City
Epitaph
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) I
Meltdown
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) II
Level Five
Scarcity of Miracles
Hell Hounds Of Krim
Easy Money
Red
Interlude
The Letters
Larks’ Tongues In Aspic Part 2
In The Court of The Crimson King
21st Century Schizoid Man
Devil Dogs Of Tessellation Row
Starless

東京:Bunkamura オーチャードホール
December 10th 2015

Peace
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) I
Meltdown
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) II
Level Five
Epitaph
Banshee Legs Bell Hassle
One More Red Nightmare
Vrooom
Easy Money
Hell Hounds Of Krim
Suitable Grounds For The Blues
The Letters
Sailor’s Tale
In The Court of The Crimson King
Starless
Larks’ Tongues In Aspic Part 1
21st Century Schizoid Man

 上の文章では全然伝えきれてないのですが、今回のライブには非常に満足しています。時間が許せば「東京4公演全部行きたい!」と思ったくらいです。