連載第115回
2016年11月6日
いまさら先月の話ですがサラッと Surface Studio のこと

 もう先月の話になってしまうのだけれど、これから突入する今年最後にして最大の消費活動シーズンを盛り上げる為の各種イベントで一番印象に残ったモノと言えば、意外にもMicrosoftが発表した「Surface Studio」でした。

Touch Barな新しいMBP

 しかし一応、ここ「Thunderbolt大作戦!」はApple周辺を巡るアレコレを書き綴るところにしているので、軽く新しいMBPにも触れておきます。目玉はかねてから噂されていた「Touch Bar」。確かに、あったらあったでソコソコ便利なのかもしれませんが、しかし個人的にはとても中途半端な気がします。仮に便利なのだとしたら、撤去してしまったMagSafeやSDカードスロット同様、スピーカーをも取り除いて、キーボードの左右に小指ですぐリーチ出来る「Side Touch Bar」も置かねば片手落ちではないのか…。

 社名からComputerの文字を取り払って今や世界一の家電メーカーと変貌したAppleがまくしたてる「最も薄い!最も軽い!最も小さい!最も強力!」なんて尺度は数日のうちに他の競争相手に抜かれ陳腐化してしまうもの。まさか「ノートパソコンを誰よりも先に『サガミオリジナル001』くらい薄く作るぞ!」なんてところを目指しているワケでもあるまいし、もし達成したとしても使い難いだろう、それは。過度に美しさを求めすぎて、ツールとして使い辛くなる谷があると思うのです。

タッチやペン機能の是非は、単にディスプレイの置き方の話に過ぎない

 さて、話をコンドームからSurface Studioに戻します。デスクトップ・パソコンをチョイスする際、最早マシン本体のスペックは何処も同じ、OSやアプリについては単に好き嫌いや作業環境に合わせればよい中で、僕が気にするのはどちらかと言うとディスプレイやマウスの方なのです。結局、入力装置の良し悪しが日々のパソコン体験に大きく関わってきます。

 思えば以前、えらく苦労して自宅まで運んだiMacを手放す原因となったのが液晶画面の高さ位置問題でした。マシン・スペックには全然不満もなく、もちろんディスプレイの画質にも十分満足していたにも関わらず、日常的に対面する画面の高さ位置が固定であることがどれだけ首を痛くさせたことか(肩も凝った)。ここには過度に美しさを求めすぎて、まさにツールとして使い辛くなる谷があったのです。設置方法をいろいろ工夫してみたけれど、自由度の少ない画面ポジションにお前の身体を合わせろ!という強制に従うことは遂に出来ませんでした。意外と僕はロックです。

 結局、またEIZOのディスプレイにMac Proという組み合わせに戻り、幸い身体の苦痛は無くなりましたが、液晶画面は昇降による高さ調整が出来て、かつチルトさせることが出来る、というのは自分にとって最低限必要な条件なのです。パンや画面のロールが出来れば尚良し。高さが固定のままなんて、そんなものは見た目がいくら美しいスタンドだったとしてもデザイナーの自己満足でしかありません。完璧ではなかったけれど、過去の製品で割と理想のカタチに近かったのは大福iMacのディスプレイでした。

 ところが驚いた事に、いつか再び新しくなったiMacがそれを解決してくれるかも…という願いは、ハードウェア・メーカーとしてユーザーの声に耳を傾ける真摯な態度を持ったMicrosoftにより叶えられました。何とSurface Studioの液晶画面は昇降し、かつチルトさせることが出来るのです!しかもこんなに机上に近づくまで!…まあ、たったソレだけの事なのだけれど、不思議な事にどのメーカーもやらないのです。

 僕も垂直に近い画面に5kgの重さのある腕を伸ばしてタッチ操作しようなんて思わないし、実際そんな格好では1分も持ちません。その点についてはAppleの言い分に同意です。ただその問題は、単にディスプレイを限りなく机上に近づけるだけで解決してしまうのです。画面を2つの可動部を使って実現しさえすれば、タッチやペンで直接ディスプレイを操作するのはたちまちアリになってしまう。むしろビジュアル・クリエイターやレコーディング・エンジニアには有効なスタイルです。事実、Pixarのスタッフはワコムのペン入力対応ディスプレイを使って作業しているではあーりませんか ↓(映っているのがMacOSXで良かったね。『アーロと少年』の舞台裏映像より)。

 ここで注目しておかねばならないのは、この制作スタイルがMicrosoft Surface Studio 単品のみではなく、Windows陣営全体で推し進めてくる気配濃厚なところ。例えば下記のDELLのコンセプトモデル(coming soonらしい)でも Surface Studio と全く同様のスタイルで機能しています。これはたちまち一般化するのではないか。

hello againが泣いた

 全世界のAppleファンの中で一体どれくらいのユーザーが今回のTouch Barにイノベーションを感じて興奮しているのか分からないけれど、これからAppleがクラムシェル・スタイルのMacで突き進むのは、メインのディスプレイから視線を逸らすことを強制する2画面仕様になる。そんなに誰も使ってなかったと主張するあの場所へ指を伸ばし、使いたい機能が表示されてる場所を視認してから、視線を再び正面の画面に戻して操作する、その2段階アクションが本当に優れた進化なのかどうか、いつか店頭で触って確かめてみたいと思います。

 それよりも今回残念だったのは、これまでデスクトップMacで使われてきた「hello(again)」がMacBook Proに使われてしまった事。売れているのがノート型なのだから仕方ないとは言え、将来の新型デスクトップMacの発表会では使われないキャッチフレーズとなってしまいました。家電メーカーの宿命として、クリエイターやアーティストよりも一般消費者に注力していくことになるとしたら(実際、最近のiTunesとか、日本家電メーカーの作るTVリモコンみたいに無駄な機能詰め込みで動線もグチャグチャですが「お前らこういうの好きなんだろ!?」と言わんばかりでアホっぽいです。イベントでも冒頭は「ガジェット縦断でTVが見られるよ!」でしたし)、Surface Studioのような昇降してかつチルトするディスプレイを持ったiMac(もしくは単品ディスプレイ)の登場は絶望的かもしれません。

 さて、画面の昇降・チルト・パン・ロールが指先だけで軽くできる機構は実現可能なのか?…と考えた時、一番手っ取り早いのは「ワイアレス化」することではないか?スタンドをどうするかという問題があるけど。というわけでiPad ProライクなApple Pencil対応の27型Retinaワイアレス・ディスプレイが、新型Mac Proと併せて来年登場するのではないか、という儚い希望を…やっぱ無理かも。