連載第9回
2020年9月22日
ARM Mac登場によるカスタマイズ時代の終わりの始まり
Mac Pro(2012)にMac Pro(2010)のドーターボード装着とX5690換装

今日、衝撃だったのは、将棋に全く興味のない人間も熱狂させている今最もホットな若き棋士、藤井聡太二冠の「自作PC」に関するニュースだった。CPUにAMDの「Ryzen Threadripper 3990X」を使用しているという。そのお値段、CPUだけで何と50万円だとか。そんなブツが売られているのかと様々なPCパーツショップのサイト等で確認してみると、一例でBOX販売で449,800円。消費税10%込みだと「494,780円」、つまりザックリ言えば50万円である。完成したPC製品ではなく、CPU単体の値段である。
極めて高性能なCPUでなければ、複雑な将棋の世界を効率的に研究し脳内に(言葉には出来ないヴィジョンで)記述していくことは難しいには違いない。これこそ正しいCPUの選び方であろう。

カスタマイズは楽しい。何故ならそれは単なるデコだから

昔から「自作PC」という言い方にはちょっとした違和感があった。市販されている規格通りのパーツを組み立てただけで何故「自作」と呼ぶのか。バラバラに部位が分かれているプラモデルを買ってきて組立てたものは自作と呼べるのか。いや、それは組立て作業前提の既製品ではないのか(凝った塗装で差別化し個性が出せれば納得もするが)。別の例だと、世界に数多くあるメーカーから販売されている、Euroack規格に沿ったシンセ・モジュールを組み合わせて自分だけのEurorack Modularをシステム化したとしても、それを「自作」とは言わないだろう。「こう組み合わせてみた」である。

自分は過去に様々なMacを数多く購入しては、その後僅かながらでも性能アップ(作業の時間短縮)を目論んでパーツの入れ替えをしたり、あるいはケースを入れ替えて気分転換などしてきたが、「自作」とは言わなかった。良く使ったのは「カスタマイズ」と気取った呼び方、時には改造とか換装とか言ったり書いたりしてきた(結局、仕事の効率化には然程寄与しなかったが)。何故そんなに入れ込んでしまったかと言えば、単純に楽しかったからだ。カスタマイズとか言っても、ちょっと距離を取って関心の無い人の立場で眺めてみれば、それは単なるデコレーションみたいなものだ。つまりはデコトラ。あるいはパソコンのチバラギ仕様と言っていい。

そんな時代もARM Mac登場で終わる

68KやPowerPC時代はサードパーティ製のアクセラレータが多く開発&発売されていて、ユーザーは比較的気軽にMacの性能アップを試すことが出来た。製品によってはディップスイッチの切り替えで、CPUの耐性限界までクロックを引き上げたりする事も出来た。Intelに切り替わってからは、CPUはより簡単に単体で入手することが出来るようになり、それを装着するソケットの形式とロジックボードの仕様が規格に合ってさえいれば良かった。Mac ProはMacBook系のようにロジック直付けではなく、ソケット式だったから交換作業は容易だった。

しかしそんな旺盛なMacデコへの情熱も、時間と共にやがて消える。雨の中の涙のように。

Apple Siliconは単体入手不可能であろう

ARM Macがどのような「セールスポイント」を定めて売りに来るのか分からない。全く予想も出来無かった突飛な形状やモジュール構成で登場するのかもしれない。が、ここは冷静に従来のままクラムシェルのノート型、そしてMac miniのような比較的コンパクトなデスクトップ型(iMac含む)、そしてプロ向けの筐体の大きなデスクトップ型というカテゴリー分けで構成されるとする。しかしその場合でもこれからは、Apple Siliconをロジックボードに直付けして組み上げられるのではないか。つまりデコMacするオジサンの楽しみは完全に封じられる。理由としては次のようなものを根拠にしている。

ざっと簡単に思いつくところは以上である。そんなに外してはいないだろうと思う。

2012年式の本体に、2010年式のドーターボードを装填するとそれは2012年式のままなのか?

そんな時、ふとしたタイミングで中古のX5690二個と、中古のMac Pro(2010)ドーターボードを入手した。後者については購入前にとても気になる事があった。今、自分が所有しているシルバータワー型Mac Proは2012年型だが、そこに互換性はあると言え、2010年型のドーターボードを差し換えた場合、「このMacについて」でマシン情報を表示した際にこれまで通り2012年型と認識されるのか、その場合はシリアルも従来と同一なのか、あるいは2010年型に型落ちしてシリアルナンバーも変わってしまうのか?…という、興味の無い人には全くどうでもいい事柄であった。早速その答えを調べてみた。

中古で入手したX5690が2個。もうソコソコに草臥れている感じがある。

同じく中古で入手したMac Pro(2010)のソケット2個版ドーターボード。仕様的には2012年も同じドーターボードを使っていることは分かっているので、問題なく動作するハズ。

ちょっと真上からの写真も載せておく。意味は無い。

まずは1つ目のヒートシンクを六角レンチを使って取り外す。接触部分のグリスを拭きとったところ。拭きとりには『アルコール除菌ウェットティッシュ』が使いやすい。

元のインテルXeon X5670(2.93GHz)。これも『アルコール除菌ウェットティッシュ』で拭きとっておく。

ソケットから元CPUを取り外し、中古のX5690に載せ替えたところ。

適当にグリスを塗る。使用したのは昔、2008年型のMac Proのカスタマイズ時に買った『シルバーグリス10.0g SG-77010』であるが、意外にも劣化しておらず普通に使えた。今はもう売ってないので代替品を使って欲しい。
ちなみに上の写真を見ると、逆さになっているがボード上に「2010」と印字されているのが分かる。

ヒートシンクを元に戻す。実はイメージが湧かないと思うが、このヒートシンクを再び取り付けるのに凄く時間がかかった。六角ネジの位置がうまく合わなくて、長時間手子摺ったのだ。もう二度とやりたくない。

そして結果は如何に

もしや2010年型に落ちてしまうのでは…という不安は杞憂に終わった。ドーターボードではなく、電源やPCIスロットのあるロジックボード側の年式をきちんと読みにいくようである。よってシリアルナンバーも変化はなかった。一安心である。

これも気になる消費電力

前回の記事で書きそびれてしまったが、ARM Macに期待する重要なポイントにもう1つ消費電力がある。同じ性能で少ない電力で実現してくるのか、あるいは同じ電力で処理スピードを上げてくるのか。という点も踏まえ、今回のシルバータワー型としては仕様的に最大スピードであるX5690に換装したMac Pro(2012)は、果たしてどれくらい電気を喰うのか?

アイドル状態で何もしてないのに「178W」である!

動画のエンコード等、12コア24スレッドフル回転の高負荷処理をさせてみたところ、驚くべきことに何と「447W」に跳ね上がった!!
2020年以降、もはや大量の電力を消費してしまうようなマシンは正義マンから即、罪悪人に降格である。地球の気候温暖化を阻止するためにも、熱く燃えたぎって作業部屋に陽炎を揺らめかせるマシンより、沈着冷静に効率良く仕事を頑張ってくれるCPUの登場が期待される。Apple Siliconには是非そこのところ、宜しくお願いしたいところである。