まわるフリフリのフリ
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映画百本 ― 連載第10回

僕の温暖化対策

2007年8月17日

 おそらくアル・ゴアはうんざりするほど「また政界に復帰する意思はないのか?」と多くの人々に聞かれたに違い在りません。しかし頑なにそれを否定しているのは、今の彼を駆り立てている「地球温暖化問題」が、長期スパンに渡って取り組まなければならない問題であり、たかが数年の任期の中で実現するのはほとんど無理、また市民に対して頭ごなしに対応を要求するよりも、地道な草の根的活動で啓蒙していくスタイルの方が適当であったからでしょう。それでも彼は、本作における講演を通じて厳しい現実を映像を持って叩き付けながらも、聴衆を決して絶望させて終わるのではなく「我々には力がある」と鼓舞して行く上手さは、やはり政治家といえるのではないでしょうか。とりあえず米民主党からの次期大統領候補は、ヒラリーかオバマかというところに注目しておきましょう。

 実際のところ温暖化は急速に進行しているのか?という疑問に対し、それはすでに深刻な状況にまで進行しているのだと主張する側は、忍耐強く具体的な事例を挙げながらチャートを交え分かり易く説明する必要があります。地球温暖化に対して疑問を発する人たち、つまり本作中においてゴアの言うところの「懐疑派」というのは、同じくゴアが講演中に引用した天体物理学者カール・セーガンが、科学者として好んだ態度であったりするのですが、一つの主張に対してそれが真実であるかどうか、科学的に実証されるまでは、疑わしい箇所では沈黙せずに堂々と疑ってみるべきであるのは姿勢として間違ってはいません。むしろ疑うことこそが正しい態度と言えるのは、科学はもし間違いが判明したのなら、速やかに「自己修正可能」なものだからです。しかし今やほとんどの科学者は温暖化に対して懐疑を抱いておらず、ここで言う懐疑派とは何かしらの既得権益にしがみついている人達なのですが。

 そんな権益とは無縁である僕も、惑星規模の長い時間の尺度からみれば近年の温暖化などは誤差の範疇に入るのかもしれないと、ふと思ったりするのですが、しかしながら、学者同士が問答を繰り返し議論するのは良しとして、個人レベルで「ここ数年は暖かくなったのではないか」と実感できる状況にあるのなら、真偽がどうあれ現時点で何らかの行動を取ったとしても、それもまた大きな間違いではないでしょう。むしろ、社会的に温暖化対策を講じることは、個人であれ企業であれ、時流に乗っていることであるし、そうした態度で技術開発・商品開発を行うことは将来の富に貢献こそすれ、無駄にはならないはずです。

 さて、地球スケールの問題に対して一個人が出来ることはあるのか?今回はささやかながら、僕の日常において、もしかしたら温暖化対策に貢献しているかもしれないと思われることを挙げてみます。

■菜食寄りである。
 完全ではないものの、今のところ僕はほぼ米・野菜・魚介類・鶏肉、という組み合わせで食生活を送っています。朝食と夜食は菜食オンリー。昼食のみ肉類が組み合わさります。年を取ったせいか以前ほど欲求が無いのです。一般には牛肉1トンに対し、餌になる草が10トン必要になることから、肉食は二酸化炭素削減の妨げになっていると言われています。現在アメリカの肥満人口が深刻ですが、たしかにあれだけ巨大化した身体を移動させると、そこには必ず放熱が伴います。たとえ自動車などを利用するとしても、その移動装置が発熱しますから、どちらにせよ暴食は避け、肥満化は避けたいところです。

■俗に言う「かねのなる木」を育てている。
 なんとなく見た目が可愛かったからという理由で、10年ほど昔に小鉢で一株だけ買ったのが、いつの間にやら増殖しています。とは言えこれがどれだけのCO2を吸い取っているのかは分かりませんし、お金も貯まってません。

■Mac mini を使っている。
 数年前まで、ちょっとパワーのあるパソコンの消費電力は冷蔵庫並だったのですが、近年は少ない電力消費量が一つの評価ポイントになりました。僕はMac miniを使うようになってから、以前G4を使っていた頃に比べると、毎月の電気代請求額がガクンと下がりました(ホント)。

■マイカー無しの電車通勤。
 これは貢献度が大きいのではないでしょうか。独身サラリーマンでインドア派となれば、マイカーの必要性など全く生じません。元来クルマに興味がなかったし、こちらでは電車網が縦横無尽に張り巡らされているので不便もありません。どうしても必要な場合はレンタカーを借りています。既に自動車はハイブリッドが市民権を得ていますし、先日トヨタの発表した「プラグインハイブリッド車」は、家庭用電源から充電可能ということで、ガソリンの消費削減にかなり効果があるのではないでしょうか。

 以上のように、温暖化対策とはそのままCO2発生の抑止に繋がるのがほとんどなのですが、ガソリンなどを燃やして動力を得る代りに電気を使うにしても、そもそもその電気を作り出すのに石油などを燃やしたりしているわけです。そういう意味で言えば、CO2の発生を抑えつつ、最も効率的に電力を供給できる方式、つまり「原子力発電」が技術的にも現在のところベストな解答である、というのは皮肉な事です。いくら倫理的に核の使用反対であっても、資源に乏しい、いや、資源など無い日本で電気に頼って生活する限り、最も効率的な原子力発電に依存していかなければならないからです(東京に住んでいるならなおさらです)。ここは一つ大人になって原子力発電を認めていこうじゃないか、と言っても、長年に渡って原子力発電で補ったCO2削減量は一瞬にしてチャラになる可能性もある。先の新潟県中越沖地震において、我々以上に柏崎刈羽原子力発電所の状況に全世界の注目が集まったのは、ある意味で日本国土自体が活断層上に浮いている原子爆弾のようなものだからです。

 だから、よりクリーンな発電、風力や太陽光によるものは個人的に期待したりしています。トヨタのように動力源を電気にシフトしていくのに加え、ホンダは発電自体に注力し始めたりしています。自動車分野で言えば、最近話題になったバイオエタノールもあります。これはサトウキビやトウモロコシを原料に使うのですが、発想はガソリンの代替であり、燃焼時に発生したCO2は原料の栽培時での吸収で相殺されるとしても「食料を使う」という点や、製造工程で生じるエネルギー消費の面で肯定出来かねる点があります。すでに地球上の陸地で3分の1が砂漠化したと聞きましたが、そのような場所を「納豆の糸」を活用して緑地化し、栽培地として利用するのなら、メリットはあるかもしれません。

 さて、最後にもう一つ。実は今年に入ってから、僕は一度もエアコンを点けていません。ここ数週間は凄まじい猛暑が続き、この原稿を書いている16日は、地方で日本での最高気温を記録したようです。でも、エアコンなしでなんとか過ごせています。先日「室内限定モバイルセット」という移動設置の簡単な音楽制作環境を整えたのですが、あれは普段の作業場所から離れて、窓際に移動すればそよ風が当たって涼しい、ということに気付いたのがきっかけです。今はその窓際で殺人的な蝉の鳴声を聞きながら(夜中なのに)原稿を書いています。実際、日中にラジオを聴いていても、リスナーからの「エアコン使わずに過ごしています」というメールを良く聞くのですが、個人的な感触ではこのようなエアコン無しで今夏を送っている人の報告は例年より増えているような気がします。果たしてそれは単に「電気代を浮かす為」なのでしょうか。もちろんここで「僅かな人達がエアコン無しで過ごそうが、大きな温暖化にさして影響を与えることもないだろう」という指摘もあるでしょう。しかしそのような指摘は少し偏狭で、大きな見過ごしがあるのです。

 その代りと言ってはなんですが、アル・ゴアが本作で聴衆に対し、巧みに隠蔽している事を指摘しておきます。もちろん映画のパッフレットにも書かれていません。

 彼は「将来の私たちの子供の為に」地球温暖化を阻止すべく今すぐ立ち上がろうと市民を鼓舞します。もちろんそれはそれで納得可能な理念です。ここで隠蔽されているのは、温暖化阻止の恩恵を受けるのは(成功するかどうかわ分からないけれど)我々の子孫であって、その行動を今まさに開始しようとしている我々は、その未来を生きて迎えることはない、という事実です。地球レベルの問題は、えてして地球レベルの時間尺度で物事が推移します。果たして、自分たちの努力が自分たちの生きている間に報われることが無い、と知れば、途端に無気力に覆われ自暴自棄になる人も多く出てくるに違い在りません。それは市民に気付かれてはまずいのであり、それはまた、彼が政治家としてではなく一個人としてこの問題に対峙しようとした理由でもあるでしょう。政治家が考える未来とはせいぜい10年、良くて20年くらい。今開始された温暖化対策が運良く効果を見せ始めるのは100年後かもしれないし、そもそも、もう手遅れなのかもしれません。

 それでも、これまで夏嫌いだった僕が、この記録的な猛暑の日々をエアコン無しで過ごしているのは何故か。おそらく僕が生きていられる今後数十年には、かつての夏らしい夏、冬らしい冬を再び経験することはないかもしれない。ならば僕は、この環境の変化に合わせ、むしろ自分の肉体の方を変えることにしたのです。とりあえずエアコン無しでも大丈夫な身体に今からカスタマイズしておくと言う事、これが現実的かつ最も効果的な真の「僕の温暖化対策」です。

ひと言メモ

監督:デイビス・グッゲンハイム(2006年/アメリカ/96分)ー鑑賞日:2007/07/01ー

■政治・社会・科学・経済がカオスっている地球モデルは非常に複雑です。温暖化問題は追及していくと限りが無くて、どこに正解があるのか分からなくなります。
■ゴアのプレゼンは非常にうまく演出され、まとめあげられているのではないかと。どんなレベルの人、どんな立場の人が観ても、最後まで飽きないというのがポイント、ある意味エンタメ。ジョブズのプレゼンより上手いと思います。
■単純に燃えるゴミを減らすのが手っ取り早いのかも。雑誌は出来るだけ古紙回収にだして、生ゴミは自宅で無臭肥料にするバイオなやつを使うとか。でも後者は独身だと効率が悪いです。4人家族以上が効率的かも。
■東京で夏を過ごすのなら、沖縄に「避暑」に行く方が良い状況になってます。
■ここであえてもう一度、さよならシロクマくん…。