連載第16回
2023年5月1日
独逸の青い部屋に澳地利製の洋琴を置く

電源は入ったものの、まずはちゃんとリヴァーブ音が出るのかどうか試したい。しかし無いのだ、どこにも。日本語マニュアルが!
いや、捨てた記憶はないのだから、この部屋の何処かにはあるはずなのだが「多分、ここに置いたはず」と思ったところに無い。じゃあ、あそこの山の中にあるだろう、と目星を付けた3箇所くらいの積読の山を切り崩して掘ってみたが、何処にも無い!

メニュー階層は深くはないが、思想が独特過ぎて全然慣れない

古い機材とは言え、たかがリヴァーブ単体のデジタル機材。お馴染みのダイアルとエンターキー・イクジットキーがあるから、それをグルグル回したりポチポチ押したりしてプリセットを呼び出せばコントロール出来るのだろうと思って押してみるも、YAMAHAやRolandなど日本製品と同じ思考の流れかと思ったら、結構クセが強い。どのブロックに居るのか迷子になる。というか、思想が独特過ぎて全然慣れない。スクラッチA、スクラッチBって一体何だ!?

更新を停止して久しい公式サイトを覗く

そこで本家公式サイトにアクセスする。サイトはもうだいぶ昔に更新をストップしており、情報も古いままである。パッと見で最終更新は9年ほど前のようだ。とりあえずマニュアルを探すと、英文マニュアルがダウンロード可能になっていた。システムのバージョンが3.1〜4.2とある。そこで、所有のQUANTECのバージョンを調べてみると、何と2.3だった。古いな!

彼方此方弄っていて何とかプリセットをロードできたようなのでDPのAUXに組み込んで音を出してみる

まずは部屋にピアノを置いた。澳地利製の洋琴である。

続けて、apollo 16のAES/EBUを経由するバスアウトを探す。

19-20chが、apollo 16のAES/EBUアウトプットらしい。

AES/EBU経由のリターンは、17-18chと判明。

メーターが振れて、音声信号がAES/EBU経由でようやくQUANTECに入った。では早速、部屋の響きを聴いてみる。

総じて暗いトーンで、きらびやかなエフェクトとしての印象は全く無い

QUANTECの音に対する印象は、上図のような情景である(画像作成者 DALL·E ※room window Vermeer real)。

ピアノ(ドライ)
ピアノ(Large Room「Volksbad」)
ピアノ(Concert Halls「CHall3-A」)

既にYardStick製品発売から10数年が経過しており、高性能なプラグインで再現されるリアルな残響を知っている今となっては、改めて強いインパクトを受けることは無いのだけれど、80年代初頭のオリジナルQRSが、当時映画やTVドラマなどのポストプロダクションで活躍したというのも頷けるような、非常にリアルな感触を、このハードウェアもそのまま引き継いでいるのだろうか。個人的に、きらびやかな装飾の無い、全体的に暗い質感に好感が持てる…というか、ピアノにフィルターを掛けて自分好みにエディットしたものを使ったので、もともとの素材が暗い印象を与えてしまったのかもしれない。

ロックやポップス、流行の先端を追いかけているカッティングエッジな音楽には全く不向きな地味な残響ではあると思う。自分の環境で手持ちのプラグインと聴き比べをしてみたけれど、ValhallaでもUAのLexiconでも、薄くかける程度であればすぐ聞き分けられるような特別なサムシングは無い。QUANTECにとても似たリアルな音を手軽に素早く作れるのは、手持ちではやはりaudioeaseの「Altiverb」だろうか。みんなもう、Altiverbで良いんじゃないだろうか。

上図も画像作成者 DALL·E ※room window Vermeer real grand piano