まわるフリフリのフリ
放談ラジオ

FLFL

放談ラジオ ― 連載第43回

ダニエル・ラノア@ビルボードライブ東京

2013年8月2日  

 Daniel Lanois(ダニエル・ラノア)と聴いてすぐ分かる人はおそらく、ただ音楽好きというよりも音楽制作の方面により興味を持っている人ではないかと思います。というのもこの人、キャリアのスタートはミュージシャンというより、エンジニア&プロデューサーだったからです。
 僕もブライアン・イーノとの関連作や、ピーター・ゲイブリエル『So』のプロデュースで名を連ねていたことから知ったわけですが、後にソロアルバムをリリースしてミュージシャンとしても注目を集めるようになり、サンレコなどでも以前より記事で紹介されることが多くなりました。個人的にはアルバム『Belladonna』の冒頭に収録されている「Two Worlds」のような音世界観が大好きで、特にスティール・ギターによる独特の音響に強く惹かれます。演奏スタイルとしては地味な方だと思うのだけれど、パッと聴いてすぐに分かるフレーズの組み方と音響設計はやはり独特のものがあって、それは今回のライブでもソロパートで発揮されていました(いつものように当日の詳しいライブ評は他に譲ります)。

初めてのビルボードライブ東京

 先週開催されていたフジロックでもプレイしていたダニエル・ラノア。その流れで今回のビルボード東京だったのでしょうか。しかし僕のように老体にその魂をようやく封じ込めているような人間にとって、野外フェスはもちろん、ドームや小さなライブハウスも含め、とにかく「観客が皆元気モリモリで演奏始まってすぐスタンディングしちゃうライブ」はもう気持ちは参加したくても肉体がついていけなくなりました。身体がダメだと、当然だけれど音楽を100%楽しめない…。そこで注目したのが、今回の会場であるビルボードライブ東京

 実はこの手のライブハウスは全く行った事がなくて、10数年前にとあるイベントの取材絡みでブルーノート東京に出向いた事が1度あるだけ。その時は純粋な音楽ライブとは違った主旨のイベントだったのですが「こういうハイソな雰囲気は緊張しちゃってワタクシもうダメですわ…」というネガティブな印象が強く残っただけでした。しかし昨今どんどん大規模になっていゆくスタジアム系のライブなどで抱く「ステージのミュージシャンが米つぶ状態で全然見えないんですけど(オマケに前のヤツ背デカイし)」という絶望感、結局ステージ背後に設置された大型スクリーンを終始眺めていることになる「これTV見てるのと変わらないじゃん」という明らかな矛盾にどんどん足はライブから遠のいていきました。僕の中ではミュージシャンとの距離が近くてさらに「終始ちゃんと着席した状態で音楽に没入出来る時空間」でのライブを求めるようになってきたのです。

 さらに譲れない重要な条件として「お気楽にライブを楽しめること」があります。その場に求められる一定の雰囲気を壊すような事はしたくないが、しかしその場に自分を合わせる事はもっと面倒臭くてイヤ、というわけもあって高級感のあるライブハウスは端から除外されていたのですが、聴くところによるとビルボード東京には「カジュアルエリア」なるものがあるらしい。僕のように普段からカジュアル過ぎて、いい歳してその格好どうなのよ…という人間もお気楽に参加出来るのならそれは素晴らしい。そこでメールで「ジーパンにTシャツみたいなお気楽な格好でもOKですか?」と問い合わせたところ「大丈夫だ、問題ない」との返答をいただきました。即、チケットを取りました。

あらゆる面で絶妙なバランス

 新宿から大江戸線を使って六本木まで、そこから徒歩で移動し会場までトータルで20分程度。当然ながらミッドタウンも初めてなので少し道に迷いましたが、着いてみれば非常に良い立地でアクセスは容易です。仕事を早めに切り上げられれば、平日のライブ(2ndステージの場合だけど)も大丈夫。入り口のカウンターでWEB予約の確認をしてカジュアル席に向かうと3階下にステージを見下ろす格好となります。「近からずも遠からじ…」というか、いや、カウンター席に座ってじっくりステージを上方から凝視出来る(つまり、ずらり並んだドラムヘッドが見られるアングルなのだ!)、これはかなり良いのではないか。音に関しては人によって色々意見があるかもしれないし、演奏時間も通常のライブに比べ短いけれど、リーズナブルな値段を鑑みればトータルで見て、今の自分の要求にストライクど真ん中な絶妙なバランスでした。天井桟敷の人という我が身の置かれた立場はこの際すっかり忘れようぞ。

 集客目的でどんどん肥大化し、より完璧を極めてゆくライブもその「お祭り」という、大勢で場を共有するコミュニティ的側面においてはむしろ喜ばしいことだとは思ったりするのだけれど、そういう大規模ライブは参加するより後に映像商品パッケージとなった時の方により価値を見い出すようになりました。個人的にはもっとパーソナルでこぢんまりしたライブ時空間を過ごしたいという気分に、僕はもう完全にシフトしています。ビルボード東京は適度にマナーが守られつつも、カジュアルな雰囲気であるが故に、ミュージシャンのパフォーマンスも良い意味で力が抜けているようで、しかしそれを不満に感じるのではなく、観客である僕も「緊張感ゼロで楽しめる」という発見がありました。年齢と体力の劣化に合わせ、音楽の楽しみ方に接する「態度」と「場」を変えてゆくというのもアリだなと、今更ながら気付いた次第。またお気に入りのミュージシャンがパフォーマンスする際は、お気楽にぶらりと出かけてみたいと思います。

ところでダニエル・ラノアのアルバムって、まだほとんどiTunesで配信されてないんですね。まあ、そんな時は是非CDで。