まわるフリフリのフリ
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放談ラジオ ― 連載第74回

SEQUENTIAL『Prophet-6』の第一印象メモがまた無駄に長い

2015年1月25日

 Pro2が発売されてまだ日も浅く、このタイミング(NAMM 2015)での新製品の発表は無いと思い込んで全くノーチェックだったところに、デイヴ・スミス氏率いるDave Smith Instruments社から、あの「SEQUENTIAL」ブランドを再び冠した新作『Prophet-6』が登場。非常に驚きました。まずはデイヴ氏自らによるProphet-6紹介ビデオをご覧下さい。

 派手なイントロから9秒の辺りで突然「ハ〜イ、I’m Dave Smith.」と切り替わるところの絶妙なタイミングに練り上げられたユーモアを感じます。いや、それはさておき、まだ詳細が良く知らされていない、動画からの映像と音だけで「デイヴ・スミスが分かっている人かどうか」という面から第一印象を書き記しておきたいと。なお、何故「SEQUENTIAL」ブランドが使えるようになったのかの経緯はこちらの記事に書かれていますが、同じ技術者同士の間にあるお互いへの敬意が伝わる素晴らしいエピソードですね。

アナログであること!が分かっている

 僕のような末端ユーザーが、天才デザイナー(設計者)であるデイヴ・スミス氏に向かって言えることでは無いのですが、発振器に以前のProphet’08のようなDCOでなく、VCOを採用してきたのが素晴らしい(たぶん。でもTUNEボタンが見当たらないからやっぱりDCOかも…)。そして後段に続く回路も(出力段手前のデジタルエフェクターを除いて)全てアナログのディスクリート構成。今やアナログを限りなく忠実に模倣出来るようになり、もはや一聴しただけでは「聴き分けが出来ない」ところまで来たソフトウェア全盛のこの時代において、ハードウェア製品を唯一差別化できるとしたら「んじゃ全部アナログで作ればいいじゃんね」という極めて真っ当な回答がProphet-6であると。Prophet’08とはどれくらい音の感触(硬さ)が異なっているのか、非常に興味があります。

追記:プリセットボタンの7番上部にホワイトで「Master Tune」と思われる印字があるのですが、おそらく黒色のGROBALボタンと組み合わせて使うのではないかと。

見た目8割!と分かっている

 楽器の見た目が演奏者の感情や創作意欲に与える影響は過小評価すべきではないと思っています。古来伝統あるオーガニックな生楽器ではない、「使われている電子パーツの仕様」によってほぼ操作の幅が決定されてしまうようなシンセサイザーの類であっても、当然見た目は重要です。その点でこのProphet-6は、余裕で合格ラインをクリアして来ました。例えば、これまでの製品にもノブ(ツマミ)はかつてのシーケンシャル製品の流れを汲んだデザインでスリム化したものを採用していましたが、ボタンに関しては「?」が点灯していました。今回、個人的に称賛を惜しまないのは、当時の「SEQUENTIAL」ブランド製品の統一感を担っていたプリセット選択ボタンの採用です。もちろんサイズや感触などは変更されているだろうけれど、このグレーとオレンジのボタンが並んでいることで、この楽器が「Prophet直系の正統派アナログシンセである」ことが瞬時に分かるのです。微妙なレトロ感覚(肯定的)とも言えますが、メインパネル上のボタンも全てこのタイプだったら…と。

シンプルであること!が分かっている

 紹介ビデオ動画の序盤で「absolutely no MENU DIVING」とProphet-6の操作コンセプトを表現している箇所に痺れました。上記のプリセット選択ボタンにもその思想が現れているように、階層を深く潜る必要の無いサウンド・メイキングがどれほど心地よいものか。パネルにならぶノブの目盛り位置を一瞥すれば、何となくどんな音になっているか分かる…というのは、例えプリセット機能が壊れたとしても、サウンド・メイキングにかかる手間を補って余りある程の創造性を引き出してくれるのです。

 そして、シンプルに徹したことにより、このProphet-6は、デジタル時代の幕開けと供に始まったあの悪しきプリセット音色名を付ける習わしからユーザーを解放します。言語化は少なからずユーザーから想像力を奪いました。P6には500音色のプリセットが保存されているようですが、このシンセに限らず、何百という予めメーカーが用意してくれたプリセットからただ受動的に選ぶのではなく、自分でオリジナルの音色を作る態度へユーザーを向かわせてくれることでしょう。そして、何番の自作プログラムがどんな音色だったかというのを、徹底的に身体で記憶するのです(>脳の老化を遅らせる効用アリ)。

早速、サンプル音を聴いてみる

 見た目は重要だけれど、もちろん音が最重要であることには違いない。上記紹介ビデオに加え、SoundCloudにアップされているデモ(全38音色)を聴いてみた中から、興味を引いたものをピックアップ。
 ちなみに僕はYMO『BGM』や『テクノデリック』、後期のJAPAN、ピーター・ゲイブリエルやフィル・コリンズのソロアルバム等で使われたProphet-5の音色が大好きということもあって、選択には偏りがあります。

 Prophet-12について感想を書いたときは、フィルターとエンベロープに施されている調整が、僕の持っているProphet-5のニュアンスと若干ズレているようだと記しましたが、今回のProphet-6では、希望しているようなアタック感がかなり再現出来そうな印象を受けます。例えば26番「Tick Tock」を聴くと、かの「電気的音楽講座」で有名になったガイドクリック音がそのまま作れそうです。22番「Ba-roke」は、細野さんが好きそうなフルート系の音素材になりそうで、うまくSlop機能を使うと「あの音」が再現出来るかも。

変調ソースにノイズが無い!のが分かってない

 僕のファースト・シンセはRoland SH-101だった影響もあり、ノイズが音色に与える効果を体験的に理解していて、その価値を認めています。素晴らしいことにSH-101にはLFO波形のセレクタにホワイト・ノイズがあり、それをフィルターに送れば過激に歪むし、オシレーターに少し送れば単純にノイズをオーディオ的にミックスするのとは異なる、不安定でありながらも微妙な味わいのある豊かな音色を作成出来たのです。以来僕はシンセサイザーのスペックをチェックする際、それがアナログであろうがデジタルであろうが、またはソフトウェアであっても「ノイズ・ジェネレーターが変調ソースに存在するか否か」を必ず確認するようになりました。しかし今、市場に出回っている製品でノイズをソースに持っているものは本当に限られています。そして残念なことに、Prophet-6のモジュレーション・ソースにも、どうやらノイズが無いらしい…。

 確かに、オシレーターミックスのセクションにはホワイト・ノイズがあるのですが、しかしそれはあくまでオーディオとしてのノイズ。僕が要望するのは、モジュレーション・ソースとしてのノイズです。Prophet-5の場合、モジュレーション・ホイールを介してノイズでピッチやPW、フィルターを変調することが可能で、いわゆる「蒸気系」と呼ばれる、他社製シンセでは得られない、独特で特徴的な音色を作成することが出来ました。

 再びProphet-6のパネルを見回してみたけれど、やはりモジュレーション・ホイールはLFOセクションにある「イニシャル・アマウント」で設定された値に、そこで選択された波形をさらにプラスする方向でしか働かない気配が濃厚。個人的には、一度使ったらすぐに飽きてしまうRandom(サンプル&ホールド)などは無くてもよいから、是非ホワイト・ノイズを採用して欲しかったところです(付け加えれば、アルペジエーターや中途半端なシーケンサーも要らないから、その代わりにLFO 2を置いて欲しかった)。ただ、「変調用のノイズが無い」というたった一つの残念な理由により、Prophet-5が6で代替出来てしまうことは無いとも言え、レジェンド5の価値が著しく低下することはなさそうです。

 ちなみにProphet’08にはちゃんとノイズが変調ソースとしてありますので、デイヴ氏は完全に分かってない、のではなさそうです。では今回のProphet-6はどうして?…ということになるのだけれど、たぶん、忘れたんでしょう。

単なるリイシュー(復刻)では勝てない!ことが分かっている

 さて、少々不満を並べてみたものの、ではこのProphet-6が所有するに値しないプロダクトであるかと言えば、答えは否。moogのように当時のパーツを使い、当時の製作方法で「System 55」「System 35」を復刻する意味は認めるのですが(あらゆる方面の条件が許せば欲しいくらいです)、Prophet-5が同じようなコンセプトで復刻されたとしても現代では他社製品に勝てないのは論ずるまでもありません。紹介ビデオ序盤でもデイヴ・スミス氏自身がコメントしているように、単なるリイシューではなく、当時の技術では5に搭載出来なかった新しいエッセンスを吹き込んだものが「6」。個人的に評価する部分を並べてみます。

 デジタル・エフェクターを搭載していること。初めて目の前でProphet-5を鳴らした時、SH-101とはまるで鳴りが違うことにとても驚いたのが今も鮮明に記憶されています。素の音でこんなに豊かなのか!という驚きです。しかし当然ながら、僕たちがこれまで数々の名作アルバムを通して耳にして来たProphet-5の音色というのは素の状態ではありません。当時はエフェクターかけ録りが多かったことを考えれば、積極的にエフェクターも込みで音色作りするのは、何ら後ろめたいものではない。あ、アナログのディストーション搭載も嬉しいです。

 サブ・オクターブ(サブ・オシレーター)を搭載していること。Prophet-5ではVCOの波形を3個同時に押せましたが、Prophet-6では連続可変仕様。音の厚みを得るのに若干不利かもしれないところを、サブ・オクターブは補ってくれるに違いない。波形は三角波だそうです。

 Slop機能。アナログ特有の不安定感を付加するこのSlop機能は、詳細は不明だけれど、デチューンとは微妙に異なる効果のよう。VCOとは言え、やはり現状のパーツを使っているのなら、昔とは考えられないくらい安定しているハズ。Prophet-5で、不安定感を強調したヨレヨレのサウンドを作ったりしていたのを、これはツマミ一つで簡単に再現してくれそうです。

 ベロシティ&アフタータッチ付き鍵盤搭載。以前の記事で長々と書いたので手短にしますが、やはりサウンドのリアルさ・生々しさを最も効果的に表現するのは、音のダイナミクスです。時間変化を伴うそれを表現するのに、ベロシティとアフタータッチは必須。もしProphet-5がベロシティに対応していたなら…というユーザーの長年の夢を、Prophet-6は叶えてくれたのです。

 コンパクトである。4オクターブで奥行きも短く、重さも9.5kgと比較的軽量なProphet-6は、メニュー階層が無いことも相まって、長時間音作りに没頭出来そうなシンセ。液晶画面を覗き込むことなく、必要な時に必要なだけボタンを押せばいいし、ノブを回せばいい。これぞシンセサイザーとの正しい向き合い方です。ところでノブの多さからして、おそらくProphet-6にはデスクトップバージョンは出ないのではないかと思うのですが、どうでしょう?

で、買うのか?と

 今年は生活必需品以外の奢侈品を「買わない」という誓いを立ててしまいました。しかし、SEQUENTIAL Prophet-6 が自分の部屋にあっても何ら不思議ではない、むしろあってしかるべき存在だと確信しています。残念ながら今年は見送るけれど、ふと気がつけばいつのまにか自分の傍にMacBook Airと一緒に並んでいる…そんな情景が目に浮かびます。ちなみに日本では40万弱でしょうか、高額には違いないけれど、あの時代のモリダイラ税が無くてホッとしています。

 注:公式なマニュアルがまだ公開されていないので、記事中の仕様には多分に憶測を含みます。ちなみに消費税10%上昇前には購入したいと考えています…が、おそらく様々な困難が待ち受けているのでしょう。でも長く待っていれば、かつてProphet-600でノイズ・ジェネレーターを搭載する改造オプションが登場したように、Prophet-6にもノイズ追加サービスが提供されるかもしれません。妄想。