連載第7回
2020年8月30日
薄くし過ぎて失敗に気付いたAppleが向かう先

先日書いた『Touch Bar』って何すか?※フィジカルコントローラーの方がええよから続くのだが、最近のMacBook系のキーボード回りについては色々思うところが多い。

遡ること2015年にバタフライ機構を採用したストロークを浅くしたキーボードを搭載したMacBookが発表された際、MacBook Airの11インチを偏愛する自分は確かに薄いキーボードへ期待を寄せた。ここに書いた記事『軽薄な新MacBookの登場で名前負けしているAirたんの運命や如何に』では、いずれ11インチのMacBook Airが復活し、薄くなったバタフライキーボードも搭載されるのではないかと儚い夢を抱いた。

※お馴染の薄さアピールタイム(↑右が2015年発表の新型MacBook)

しかしそれから1年半程経つ間に、その薄くなったキーボードに対し、購入したユーザーからの不満が彼方此方から噴出。「打ち難くて慣れない」というのはまだ、時間を掛ければ慣れるのかもしれない猶予を与えつつも、ホコリの混入による接触不良に加え、物理的に故障するという不具合報告(文字入力されない、チャタリングが起きる等)のレポート記事を目にすることが多くなり、家電量販店の店頭で2分くらいしか触ったことのない自分でさえ、「あ、薄くしすぎて谷を越えてしまったな」と思った。

相次ぐ故障対応に「ヤバい」と感付いたAppleは対象製品について「MacBook/MacBook Proのキーボード無償修理プログラム」を開始した。

考えれば分かる、例えば「厚さたった0.3mmのジーンズを開発しました!」と飛ぶ鳥を落とす勢いのレナウンが売り出したとしても、いや、それ誰も履かないだろうと。

そして月日を経て2019年。16インチとなった新型MacBook Proで「シザーキーボード」が復活。薄くしたのに、また厚くなって戻ってきた。薄い事は正義!という思想を高く掲げていたのに、その旗を引き降ろしたのか。

しかし今のAppleには安心出来ない

再度、キーボードを厚くしました。この動きをAppleファンなら「流石Apple、間違いを認めて迅速なフィードバックですぐにリカバリーだな」とポジティブに考えるだろう。何せ自分の観測範囲内では、極端に薄くしたことにより、打鍵時の衝撃で指先が痛いというバタフライキーボードを褒め称えたレビュー記事はついぞ見かけることが無かったのである。厚くしたら旧来の物理キーボード派は喜ぶに違いない。

そもそもAppleは何故、無謀にもキーストロークを浅くし、限界まで薄さを極めようと邁進したのか。そこはやはり「薄い事、それは即正義」というちょっと不思議な世界のイデオロギーが存在していたのかもしれない。それを強力に促進した声の大きい人の意向も強く働いていたに違いない。果たしてそれを、サラッと翻してしまえるものだろうか。あるいは「それは全て、ジョニー・アイブのせい」ということで終わらせたのだろうか。

僕が考える最悪の未来

タッチバーについてはキーが復活したものの、escキー1個とTouch ID用キーの2個である。タッチバーは依然としてそこに居座っている。

もしかしたら今回の揺り戻しは暫定的なもので、将来はやはり「薄さ上等!」という世界を目指しているのかもしれない。つまりキーボードを全て液晶パネル化してしまうのである。何せTouch Barを残しているくらいなのだから、いま物理キーボードが存在する平べったい地域は「アプリの用途によって自在に変化する、かつてキーボード&タッチパッドだった部分」というウルトラC的解答を披露するかもしれない。この記事を書いている日、たまたま映画館で観た作品ではスマホの画面に映し出されたソフトキーボードを使って高速文字入力している若者の姿に感嘆してしまい、デジタルネイティブはもはや物理キーボードなんて必要と感じていないのではないかという気もする。定型文ならOS側が記憶してくれるだろうし、何なら今は音声入力だって可能な時代である。多くのユーザーから不評を買ったMacBookの起死回生のさらなる一発逆転劇は「遂に物理キーボード全て無くしました!Hello again again」と来るかもしれない。

ひとまず今は改良型シザーキーボードに戻したとしても、そんな予感がして仕方ない。人生、ネガティブ思考で生きてきたので、まあ話半分で聞いといて。

好みのフィジカル入力装置は蓄えておく

僕は古い人間である。別に物書きでもないし、プログラマーでもないけれど、カチカチと小さな音を立てながらキーボードを打つのが好きである。だからこの先10年くらいは手持ちのMacで使える中古のキーボードを数枚バックアップしている。薄さ至上主義を唱えるAppleが、僕は嫌いである。